マラケシュ最終日、朝一番で向かったのは、青と緑が織りなす芸術空間・マジョレル庭園。
フランス人画家マジョレルが愛し、イヴ・サン=ローランが守り抜いたこの庭園は、早朝のひんやりとした空気と色彩に包まれ、まるで別世界に迷い込んだような感覚を味わわせてくれた。
その後は、メディナを散策しながらモロッコ文化に浸るひととき。
いたるところで目にする「ファティマの手」、シュールなブリキ看板、そして呪術に使われる生きたカメレオンや蛇使いの姿──この街には、今なお人智を超えた何かと共存する空気がある( ゚Д゚)
ローカル食堂でいただいたスパイシーなケフタタジンの味とともに、五感でマラケシュを締めくくる一日となった。
明日はいよいよシャウエンへの大移動が待っている。
早朝のマジョレル庭園へ──青と緑に包まれる癒しの時間
今日はマラケシュの中でも屈指の人気スポット、マジョレル庭園を訪れた。
青い建物と多種多様な植物で知られるこの庭園は、もともとフランス人画家ジャック・マジョレルの私邸として造られたもの。
その後、ファッションデザイナーのイヴ・サン=ローランが買い取り、保存・整備されたことで、現在の美しい姿が保たれている。
マラケシュの夏は昼間の気温が40度近くまで上がるため、涼しい朝の時間帯を狙って行くことにした。
以前は予約なしでも入れたが、今では事前にオンライン予約が必須。
公式サイトで、朝8時入場指定のチケットを170ディルハム(=2,860円)で購入した。
外国人価格とはいえ、なかなかの出費である。
ホテルからは徒歩で約40分。
日中なら歩くのはきついが、朝の空気はまだ穏やかなので、のんびり歩いて向かった。

入口ではスマホでQRコードを提示し、チケットを確認してもらって入場。

するとすぐに、サボテンやヤシの木など、世界中から集められた植物たちが出迎えてくれる。
乾いたモロッコの空気の中で、ここだけは少し湿度を感じるような、涼やかな空間だ。
朝のひんやりとした風、手入れの行き届いた緑、彩度の高い花々──すべてが清々しく、思わず深呼吸したくなる。

庭の奥へと進むと、イヴ・サン=ローランが30年近くにわたって愛した別荘が現れる。
年に数週間から数か月をこの場所で過ごし、マラケシュの光や色彩、伝統文化から多くのインスピレーションを受けていたという。
この場所で静かに過ごし、創作の糧を得ていた彼の姿を想像すると、なんだか胸があたたかくなる。

建物の前には小さな噴水があり、まわりにはさまざまなサボテンが植えられている。
洗練されていながらもどこか落ち着く、そんな空間だ。

さらに奥へ進むと、イヴ・サン=ローランと、彼の生涯のパートナーでありマジョレル庭園の共同所有者でもあったピエール・ベルジェを偲ぶ追悼のスペースがある。
ふたりの遺灰はこの庭にまかれ、今も静かにこの地に息づいている。
華やかさの奥にある、静かで尊い空気に包まれた場所だった。

庭園の最奥には、この場所の名の由来となったジャック・マジョレルの家が残されている。
鮮やかな青と黄色が印象的な建物で、庭の中でも際立って美しい。

その手前にある水色の噴水では、水の音が静かに響いており、周囲を囲むサボテンやヤシとともに、心を落ち着かせてくれる風景をつくり出していた。
この庭園は、もともとマジョレルが住まい兼アトリエとして造ったもので、彼は植物を深く愛し、世界中から植物を集めて20年近くかけてこの庭を育てたという。
現在は美術館として整備され、彼の色彩感覚と芸術への情熱が感じられる空間になっている。
喧騒あふれるマラケシュの中にあって、まさに「都会のオアシス」だった。

ゆっくりと庭を巡ったあとは、園内に併設されたカフェ「Café Majorelle」へ。

朝食をまだ食べていなかったので、ヘルシーセットを注文。
内容は、カフェラテにハーブ入りのスクランブルエッグ、デーツなど。
そして主役は、モロッコ南部の伝統ペースト「アムルー」。
アーモンドとアルガンオイル、ハチミツで作られた香ばしく甘いパンで、これにさらにハチミツやチーズを添えて食べるスタイル。
135ディルハム(=2,312円)とお高めではあったけれど、8年前にこのカフェでお茶をした思い出があり、再びここに来たかった。
朝一番の時間帯はカフェも空いていて、静かに落ち着いて過ごせたのもよかった。
メディナをぶらり散策、ベルベル呪術と出会う街角

朝食後は、メディナの北側にある門「Bab Doukkala(バブ・ドゥッカラー)」から再び旧市街へ。
のんびりと散策しながら、宿へと戻った。

メディナを歩いていると、いたるところで目にするのが「ファティマの手」のモチーフ。
アクセサリーや雑貨、壁飾りなどにあしらわれていて、もはやこの街のシンボルのひとつと言っていい存在感だ。
手のひらを開いたような形で、中央に“目”が描かれていることも多い。
これは邪視(悪意ある視線)から身を守るためのお守りとして、イスラム圏や北アフリカで古くから使われてきたもの。
名前の由来となったファティマは、預言者ムハンマドの娘で、清らかさと強さの象徴とされている。
キーホルダーやピアス、小物入れの蓋やタイル模様など、さまざまな形で暮らしの中に息づいているのが面白い。

メディナの一角には、手描きのブリキ看板がずらりと並ぶユニークな店も点在している。
昔ながらの職業紹介や、謎の警告メッセージが、カラフルかつちょっとシュールなイラストとともに描かれていて、見ているだけであっという間に時間が過ぎてしまう。
マラケシュの混沌とユーモアが、こんなところにも表れている気がする。

スークの片隅で、小さな木のかごに閉じ込められていたのは、なんと生きたカメレオン。
マラケシュでは、カメレオンを伝統的なベルベルの呪術や民間療法に使う文化があるそうで、こうして市場で売られている姿をたまに見かける。
魔除けや願掛けに使われるらしいけれど、ケージの中でじっと動かないその姿を見ると、なんとも言えない気持ちになってしまった。

フナ広場に行くと、さらに強烈な光景が。
そこには、呪術グッズを並べた露天商がいて、なんと乾燥させたカメレオンやトカゲが無造作に置かれていた。

見てはいけないものを見たような、それでも目を離せない──そんな不思議な空気に包まれた空間だった。

さらにフナ広場では、蛇使いの路上パフォーマンスにも遭遇。
観光パフォーマンスとして知られているが、もともとは宗教的・呪術的な背景を持つ存在だ。
モロッコでは蛇が「ジン(精霊)」とつながる存在とされ、蛇使いはそのジンを操る力を持つ者と信じられていた。
かつては祈祷や魔除けの儀式にも関わっていたが、今ではその名残がエンタメとして形を変えて残っている。
ベルベル呪術の文化は、オカルト的でありながらも、どこか神秘的で奥深い。
単なる“観光地”ではない、マラケシュのもうひとつの顔に触れた気がした。
ローカル食堂で味わうケフタタジンとマラケシュ最後の夜

この日の夕食は、フナ広場のすぐそばにある「Snack El Yasini」へ。
観光客向けのレストランと違い、ローカルのお客さんが多く、値段もリーズナブル。
味も申し分なく、旅人にとってありがたい一軒だ。

この日選んだのは、モロッコの定番家庭料理「ケフタタジン」。
トマトソースでぐつぐつと煮込まれた中に、ジューシーなひき肉がごろごろ。
仕上げには卵を落とし、半熟に仕上げるのが定番のスタイル。
スパイスの香りとトマトの酸味、そしてお肉のうまみが一体となり、シンプルながらも奥深い味わい。
今日は、マジョレル庭園の観光に始まり、メディナの散策やベルベルの呪術文化に触れるなど、マラケシュ最終日をたっぷりと楽しむことができた。
そして明日は、いよいよマラケシュからシャウエンへと、丸一日かけての大移動が待っている。
複雑な乗り継ぎを無事にこなせるのか…少し不安を感じつつ、就寝。
8月4日:使ったお金
この日はマジョレル庭園での贅沢モーニングが響いた一日。
とはいえ、街歩きの発見はプライスレス。
・マジョレル庭園入場料:170ディルハム(=2,860円)
・朝食(ヘルシーセット):135ディルハム(=2,312円)
・ミックスジュース:20ディルハム(=325円)
・歯磨き粉等:13ディルハム(=211円)
・夕食(ケフタタジン等):60ディルハム(=976円)
合計:6,684円