ポルトから夜行バスでスペインの首都マドリードへ。
早朝、定刻通りにバスターミナルへ到着し、メトロに乗り換えて中心部のソル駅へ向かう。
まずは荷物を宿に預け、老舗のチョコラテリアでチュロスの朝ごはん。
そのあと街をぶらりと歩きながら、観光市場とローカル市場をのぞき見。
お昼は評判のラーメン屋さんで、まさかの本格味噌ラーメンに大満足。
そして夕方、いよいよプラド美術館へ。
世界三大美術館のひとつとも称されるその場所で、ラス・メニーナス、快楽の園、受胎告知といった名画と向き合う時間は、たった2時間でも心を揺さぶられる体験だった。
チュロスと生ハムと名画と、マドリード初日は芸術と美食のごほうびデー。
そんな一日を、たっぷりの余韻とともに記録しておきたい。
マドリードに朝着|バスターミナルから街へ

朝7時半ごろ、バスは定刻通りにマドリードのMadrid-Southバスターミナルに到着した。

ここは中心部から少し離れた場所にあり、すぐ近くのMéndez Álvaro駅からメトロを乗り継いで、宿の最寄り駅であるSol駅まで向かう。

券売機でチケットを購入したところ、なんと4.2ユーロ(=722円)もしてびっくり。
理由はTarjeta Multi(マルチカード)代込みだった。
マドリードの公共交通はこのカードがないと使えず、初回はカード本体の購入費が別途かかる仕組み。
今回の旅ではこの一度きりしか使わないのに…と思うと、ちょっともったいない出費だった。
途中で一度乗り換えをしながら、無事にSol駅に到着。

地上に上がると、そこにはマドリードの中心広場であるプエルタ・デル・ソル(Puerta del Sol)が広がっていた。
朝早い時間だったので人は少なかったが、日中はスリも多いと聞くので、歩くときは少し注意が必要そうな場所。

広場には、街のシンボル「クマとイチゴノキ」の像が立っている。
イチゴノキの実を食べるクマの姿は、市の紋章にも使われていて、観光客に人気の撮影スポットになっている。

この日の宿は、プエルタ・デル・ソルから歩いて5分もかからないTOC Hostel Madrid。
立地がとてもよくて便利。
まだチェックインの時間ではなかったので、荷物だけ預けて朝ごはんを食べに出かけることにした。
チュロスの朝ごはんと市場めぐり

向かったのは、1894年創業の老舗チョコラテリア「San Ginés」。

名物は、揚げたての細長いチュロスを、とろりとした濃厚なホットチョコレートに浸して食べるスタイル。
チョコレートは甘すぎずビターで、ちょっと大人な味わい。
お願いすれば、水道水を無料で出してくれるので、チュロスと一緒においしくいただいた。

朝食後は街をぶらぶら散策。
まず訪れたのは有名なサン・ミゲル市場。
だけど、ここは「市場」というよりも、おしゃれなタパスバーがぎゅっと詰まった観光客向けのスポットといった雰囲気。
価格もやや高めで、個人的にはあまりときめかなかった。

そのあと訪れたのは、よりローカル感のあるMercado de la Cebada。
けれども、こちらはシャッターが多く閉まっていて、少し寂しげな印象だった。
かつてはもっと活気があったのかもしれないが、いまは大型スーパーの時代。
営業していたのは、数軒の八百屋さんや魚屋さんだけだった。
それでも、ひっそりと地元の人が集まるようなタパスバーが営業していて、ちょっと気になる雰囲気。
また明日、時間を変えて再訪してみようと思う。
味噌ラーメンと抹茶アイスに癒された、満足ランチタイム

お昼は、ラーメンが評判の「かぐら」へ。
味噌ラーメン、餃子、ソフトドリンク、デザートがセットになったランチメニューが12.95ユーロ(=2,227円)で提供されていて、迷わず注文。
これが想像以上に美味しくてびっくり。
味噌ラーメンはまるで日本で食べるラーメンのような本格的な味だった。

セットのデザートは抹茶アイス。
食後にさっぱりといただけて、大満足のランチとなった。
マドリードは観光都市というよりも、経済都市として栄えてきた街なので、リスボンやポルトのような観光地特化の街と比べて、観光客向けでないローカル価格のお店も多いように感じた。
うまく選べば、美味しくてお手頃なお店に出会えるのが嬉しい。
スーパーで生ハムやワインなどを買い込んで、夕食に備えていったん宿に戻った。
立地最高のTOC Hostel Madridでマドリード滞在開始

マドリードの宿「TOC Hostel Madrid」の共有スペースはとてもおしゃれな雰囲気で、あちこちでMacBookを広げて作業をしている人の姿があった。
おしゃれな場所ほどMac率が高いのは、なぜなんだろう。
私もMacだけど。

女子ドミトリーは6人部屋で、部屋の中には洗面台・トイレ・シャワールームがそれぞれ2つずつ備えられていて、広々としていた。

水回りとベッドスペースの間にはドアもあり、早朝や深夜に音を立てても気にならない作りになっていて安心だった。
シャワーを浴びて、しばらくベッドでのんびり過ごしたあと、17時ごろにプラド美術館へ向けて宿を出発した。
世界三大美術館プラドへ 無料入場で名画をめぐる

マドリードの街は、古い石畳と優美な建物が調和した、歩くだけでうっとりするような美しさを持っている。
白い壁にアイアンのバルコニーが映え、カフェのテラスには穏やかな時間が流れ、どの角を曲がっても絵になる風景に出会える。
宿からプラド美術館までは徒歩で20分ほどの道のりだったけれど、美しい街並みを眺めながら歩いていたら、あっという間に到着してしまった。

プラド美術館は、パリのルーヴル美術館、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館と並ぶ、世界三大美術館のひとつ。
スペイン王室のコレクションをもとにした所蔵品には、ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコなど、スペインを代表する巨匠たちの名画がずらりと並んでいる。

そんな格式ある美術館でも、毎日18:00〜20:00(祝日と日曜は17:00〜)の時間帯は、無料で入館できるのがありがたい。
私もその無料枠を利用して行ってみたのだけれど、想像以上の大行列で驚いた。
17時30分に並び始めて、中に入れたのは18時20分。
しっかり見たい人は、30分から1時間前には並ぶのがおすすめ。
無料入場の時間は2時間しかないので、見たい作品はあらかじめリストアップしておくと効率的。
私は入館後すぐに紙の案内パンフレットをもらい、展示作品と部屋番号を確認。
パンフレットに載っていない作品は、近くのスタッフに部屋番号を尋ねて教えてもらった。
美術館内はとても広く、ただ歩いているだけでもすぐ時間が経ってしまうので、目当ての作品に一直線で向かうくらいの気持ちでいた方がいい。
以下に、私が鑑賞した11作品とその部屋番号を記しておくので、これから行く予定の方の参考になれば嬉しい。※展示位置は変わる可能性があるので、現地での確認はお忘れなく。
- 0階56A 快楽の園(ヒエロニムス・ボス)
- 0階56B 受胎告知(フラ・アンジェリコ)
- 0階64 1808年5月3日(ゴヤ)
- 0階67 土星が我が子を食う(ゴヤ)
- 0階49 枢機卿の肖像(ラファエロ)
- 1階12 ラス・メニーナス(ベラスケス)
- 1階29 三美神(ルーベンス)
- 1階38 裸のマハ(ゴヤ)
- 1階38 着衣のマハ(ゴヤ)
- 1階8B 胸に手を置く紳士(エル・グレコ)
- 1階9A ブレダの降伏(ベラスケス)
今回はこの中から、特に心に残った3作品を紹介したいと思う。
ラス・メニーナス(ディエゴ・ベラスケス)

プラド美術館で最も有名な作品といえば、やはりディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス」。
王女マルガリータを囲む侍女たち、画家自身、そして鏡の中に映る国王夫妻まで登場する、不思議な奥行きのある構図に引き込まれ、しばらくその場から動けなかった。

とくに印象に残ったのは、王女のそばに描かれた二人の矮人の存在。
当時の貴族社会では、矮人を道化として囲う風潮があったけれど、この絵の中の彼らは、ただの笑い者としてではなく、ひとりの人間として描かれているように見えた。
落ち着いた表情で佇む女性マリア・バルボラと、犬をからかうやんちゃそうな男性ニコラス・ペルトゥサート。
それぞれの個性が丁寧に表現され、飾りではなく「存在」としてそこにいた。
ベラスケスの筆には、彼らへの敬意や、当時の社会に対する静かな問いかけが込められていたのかもしれない。
快楽の園(ヒエロニムス・ボス)

私が最も衝撃を受けたのは、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」。
魚が空を飛び、意味のわからない生き物がうごめき、なかにはケツ穴に花がぶっ刺さっているという、想像をはるかに超えたカオスな世界( ゚Д゚)

この作品が描かれたのは1500年前後。
まだ教会や貴族が芸術を支配していた時代に、こんなに自由な表現が許されていたことに、本気で驚いた。
でも、これはただの奇抜な妄想画ではなく、「快楽に溺れる人間の愚かさ」への風刺だと感じた。
実際、当時の王族たちにも高く評価されていたというから、単に変わり者としてではなく、深い宗教的メッセージが読み取られていたのだろう。
凡人の私にはすべてを理解するのは難しいけれど、異次元の世界に迷い込んだような、圧倒的な体験だった。
受胎告知(フラ・アンジェリコ)

最後に紹介するのは、私の大好きな画家フラ・アンジェリコの「受胎告知」。
フィレンツェのサン・マルコ修道院で見たフレスコ画の「受胎告知」は、静かで素朴な雰囲気の中に神秘が漂い、見る者の心を穏やかにしてくれる一枚だった。
それに対して、今回プラド美術館で出会った「受胎告知」は、色彩がより鮮やかで、装飾も美しく、全体が光に包まれているように感じられた。

特に印象的だったのは、マリアの前にふわりと舞い降りる天使の姿。
柔らかな羽根と繊細な衣の輝きに、しばし見とれてしまった。
舞台となっている回廊の庭も静謐で、奇跡がまるで日常の延長線上にあるように、自然な流れで描かれている。
このテーマは多くの画家が描いてきたけれど、私はやっぱりフラ・アンジェリコの「受胎告知」がいちばん好きだ。
劇的な演出に頼らず、控えめな構図と穏やかな光で、深い神聖さを表現しているように思う。

気づけば2時間はあっという間に過ぎていた。
帰り道は夕焼けに染まるマドリードの街並みを歩きながら、名画の余韻にひたる。
こんな体験が無料でできるなんて、スペインってなんて素敵な国だろう。

夕食は、昼間スーパーで買っておいた生ハム、メロン、パタタス・アリオリ(茹でたじゃがいもにガーリックマヨを和えたサラダ)、そしてサングリア。
12ヶ月熟成の生ハムは、日本でよく買う安価なものとは全然ちがう深い味わいで、本当においしかった。
メロンは一玉買ってしまったけど、宿の共同キッチンには包丁がなく、普通のナイフで切るのに苦労した。
でもカットメロンより安くて量もたっぷり。
やっぱりお得。
夜行バス明けで街歩きして、美術館まで満喫した一日だったので、今日はもうへとへと。
明日の昼はゆっくり休もうと思う。
そして、夜にはいよいよピカソの「ゲルニカ」との初対面。
名画たちの余韻を胸に、明日へのワクワクとともに眠りについた。
8月20日:使ったお金
19日に払ったバス代(ポルト→マドリード)は、スペインでの合計に含めるため20日分に計上しています。
・バス代(ポルト→マドリード):38.98ユーロ(=6,892円)
・地下鉄代(Madrid- South→Sol):4.2ユーロ(=722円)
・朝食代(チュロス):6.2ユーロ(=1,066円)
・スーパー買い物代(生ハム等):8.67ユーロ(=1,491円)
・スーパー買い物代(サングリア等):2.88ユーロ(=495円)
・昼食代(味噌ラーメンセット):12.95ユーロ(=2,227円)
・宿代(2泊分):42.95ユーロ(=7,759円)
合計:20,652円