スペイン滞在のハイライトのひとつ、サグラダ・ファミリア。
長いあいだ憧れてきたこの場所へ、ついに朝一番のチケットを手に訪れる日がやってきた。
ガウディが生前に手がけた生誕のファサード、外尾悦郎さんによる果物の彫刻、光に包まれる堂内のステンドグラス──その一つひとつが息をのむほど美しく、ただ見上げるだけでなく、細部の意味や象徴に触れるたびに胸が高鳴った。
生誕の塔に登り、かたつむりの殻のような螺旋階段を降り、受難のファサードや展示室、ガウディの眠る場所までを巡ると、彼の思想と情熱が今も生きていることを強く感じられる。
午後はカタルーニャ美術館へ。
無料入場でロマネスクの傑作からエル・グレコ、ガウディの家具まで堪能し、夜はブライ通りでタパス三昧。
観光も芸術もグルメも詰め込んで、これで1万円以下。
自分でも驚くほど満足度の高い、バルセロナでの濃密な一日となった。
朝一番の光に包まれて──サグラダ・ファミリア入場
今日は、いよいよサグラダ・ファミリアへ。
一ヶ月以上も前に公式サイトでチケットを予約していたので、準備は万端。
人気の観光地だけあって、朝一番の時間帯がもっとも空いていておすすめ。
生誕の塔や受難の塔に登るには追加料金がかかるけれど、私はどうしても、ガウディ存命中に下部が完成していたと言われる「生誕の塔」に登りたくて、朝一番の枠を選んだ。
36ユーロ(=6,365円)と、個人的にはなかなかの出費だったけれど、他の美術館は無料入場で抑えるなどして、どうにか旅費の中から捻出。
塔付きのチケットは特に人気なので、早めの予約がおすすめ。

朝ごはんは、昨日スーパーで買っておいたお菓子。
宿の部屋で軽く済ませて、徒歩でサグラダ・ファミリアへ向かう。

宿から歩いていくと、まず目の前に現れたのは受難のファサード側。
初めて見る“ナマ”のサグラダ・ファミリアに、思わずテンションがぶち上がる。( ゚Д゚)

入場口は東側の生誕のファサード側にある。
そこでEチケットを提示して中へ。
チケットには、公式アプリの日本語オーディオガイドも含まれていて、追加料金なしで利用可能。
スマホにアプリを入れて、チケット情報を読み込み、音声ガイドを事前にダウンロードしておけば、到着後すぐに使えてスムーズ。
実際にはオーディオを聞いている人は少なめだったけど、日本語で丁寧な解説を聞きながら回ると、見どころをしっかり押さえられておすすめ。

最初に目に入るのは、東側の生誕のファサード。
キリストの誕生と幼少期がテーマで、唯一ガウディが生前に手がけたファサードでもある。
自然をモチーフにした彫刻がびっしりと施され、喜びに満ちたあたたかな雰囲気に包まれている。
下部はガウディ存命中に完成し、塔部分は彼の設計や模型をもとに造られた。

ファサード上部でラッパを吹く天使の像は、日本人彫刻家・外尾悦郎さんの作品。
キリストの誕生を祝う音を天に響かせているようで、見る人の心にも喜びが伝わってくる。
さらに、塔の上にちょこんと飾られたカラフルな果物の彫刻も外尾さんの手によるもの。
生命の恵みや豊穣を表現していて、サグラダ・ファミリアには日本人の技と感性がしっかり刻まれている。


入口の両脇には、リクガメ(左)とウミガメ(右)の彫刻が、建物の足元を支えるように配置されている。
陸と海、それぞれの自然の力の象徴であり、「自然界の調和」を表しているのだそう。
動かずに耐える陸の力、ゆったりと流れる海の力。
その両方が建物を支えているという構図がとても深く、足元に隠れたメッセージに思わず見入ってしまった。

朝9時の開門と同時に堂内へ。
北側のステンドグラスが朝の光を受けて、青や緑を基調にキラキラと輝いていた。

ステンドグラスの光は床や柱にも映り込み、澄んだ青や緑の光が神秘的な空間をつくり出していた。
人の少ない時間帯だったこともあり、堂内はとても静かで、まるで祈りの森の中にいるようだった。

反対側、南側のステンドグラスは赤やオレンジがメイン。
夕日の時間帯には堂内が赤や金色に染まり、また違った表情になると聞いて、いつか夕暮れ時にも訪れてみたいと思った。

柱にも、赤・黄色・緑などの光が映り込み、まるで自ら発光しているかのよう。
建築と光が一体となって生まれるこの光景に、立ち止まってしばし見とれてしまった。

祭壇を背に記念撮影。
階段に差し込んだステンドグラスの光が、赤や青の模様となって反射し、まるで光の舞台に立っているような幻想的な背景だった。

ふと見上げると、柱が木の枝のように分かれて広がり、先端には花のような装飾が施されていた。
石造りとは思えないほど自然のぬくもりがあり、「森の教会」を目指したガウディの世界観がまさにそこにあった。
生誕の塔へ、ガウディの残した道をたどる

9時15分、いよいよ塔の予約時間。
人数制限のある専用エレベーターに乗って一気に上へ。

エレベーターを降りると、塔の上部にかかる細い橋を歩くことができ、外尾さんが手がけた果物の彫刻を間近で見ることができた。

石なのにみずみずしく、まるで本物の果物のように生命力にあふれていた。

下りはすべて階段。
途中に分岐があるけれど、どちらを選んでも最終的には同じ出口へとつながっていて、行き着く先はあの名物の螺旋階段。

最後に現れるのは、かたつむりの殻のようにぐるぐると続く螺旋階段。
上から覗き込むと吸い込まれそうで、ガウディの独創的な発想を身体で体感できる名場面だった。
受難のファサードを抜けて、展示室とガウディの眠る場所へ

受難のファサード側には小さな展示室があり、ガウディがデザインした椅子や装飾品などが展示されている。

どれも自然の曲線を活かしたデザインで、人間の体に沿うように工夫されているのが印象的。
芸術と実用性を兼ね備えた、まさに“機能するアート”だった。

西側の受難のファサードは、生誕のファサードとは対照的。
ここではキリストの受難と死が描かれていて、彫刻も角張った形で、厳しさや緊張感が強調されている。

その一角にある「受難の魔方陣」は、縦横斜めどこを足しても33になる数字のパネル。
キリストが亡くなった年齢を象徴していて、装飾というよりは謎めいた暗号のよう。
見学の締めくくりは地下礼拝堂の上にある博物館へ。
ここには模型や建設の記録写真が展示されていて、ガウディの死後も受け継がれる建築の歩みを知ることができる。
ガウディは1926年、路面電車にはねられて亡くなり、ここサグラダ・ファミリアの地下に埋葬された。
館内の窓からは、彼のお墓を真上から少しだけ覗くことができた。

展示室にはガウディのデスマスクも置かれており、彼の人生の終焉を静かに物語っていた。

見学を終え、もう一度、生誕のファサード側にまわってサグラダ・ファミリアの全景を眺めた。
140年以上かけて今もなお建設が続くこの大聖堂は、人間の手で創られたとは思えないほど荘厳で神聖だった。
外尾悦郎さんをはじめ、多くの人々がガウディの思想に共鳴し、世代を越えて建設に力を注ぎ続けている。
その姿は、宗教がいかに人に創造力と情熱を与えうるかを、強く感じさせてくれるものだった。
完成間近と言われるサグラダ・ファミリア。
もしガウディが、完成した姿をこの目で見たら──いったいどんな気持ちになるのだろう。
そんなことを思いながら、大聖堂をあとにした。
無料入場でカタルーニャ美術館へ!必見の名作たち

帰り道、スーパーでサラダパスタを買って、宿の自室でお昼ごはん。
しばしの休憩もそこそこに、次の目的地・カタルーニャ美術館へ向かう。

Diagonal駅からEspanya駅まで地下鉄で移動。

たった数駅の移動でも、チケット代は2.65ユーロ(=449円)。
うう、けっこう高い……帰りは歩こうかな、と思ってしまう金額だった。(‘A`)

モンジュイックの丘の上に建つカタルーニャ美術館は、まるで宮殿のような立派な建物。
エントランスへ向かう途中には長いエスカレーターがいくつも設置されていて、坂道が不安な人でも安心してアクセスできる。
この建物は、もともと1929年のバルセロナ万国博覧会のために建てられたもので、現在は美術館として生まれ変わり、カタルーニャ芸術の宝庫になっている。

カタルーニャ美術館は、毎週土曜日の15時以降と毎月第一日曜日に無料で入場できる。
私は事前に公式HPから15時〜の無料チケットを予約していたので、それにあわせて訪問。
到着すると、すでに多くの人が建物前に並んでいて、左が「予約あり」、右が「予約なし」の列。
列は長かったものの、進みは驚くほどスムーズで、数分待っただけで中へ入ることができた。

館内にはロマネスク美術から近代絵画、さらにはアントニ・ガウディの家具まで、幅広いコレクションが展示されている。
とにかく広いので、事前に「これだけは見たい!」という作品をピックアップしておくと効率的。
紙のマップは置いてなく、QRコードを読み取ってスマホで確認するスタイルだった。
今回はその中から、特に心を奪われた3つの作品をご紹介──。
サン・クリメント・デ・タウイの壁画(Room 7)

ピレネー山中の教会から移設されたこの壁画は、ロマネスク美術の最高傑作とも称される。
展示室には教会の後陣(アプス)がそのまま再現されていて、まるで本物の教会の中にいるような没入感。
光背の中に鎮座するキリストは、「私は世界の光である(Ego Sum Lux Mundi)」と書かれた書物を手にしていて、そのまなざしはやさしく、それでいて圧倒的だった。
十字架を担うキリスト/エル・グレコ(Room 32)

エル・グレコによるこの作品に描かれたキリストは、苦しみに耐えているというよりも、すべてを受け入れたような穏やかな表情をしていた。
あとで調べてみると、この絵では十字架が「苦しみ」ではなく「勝利の象徴」として描かれているとのこと。
たしかに、静かに、力強く、希望を宿しているようなまなざしだった。
アントニ・ガウディが手がけた椅子や家具たち(Room 63〜66)

建築家ガウディの「家具」の世界。
木のぬくもりと、曲線を大胆に使ったデザイン。
機能性よりも造形美が重視されていて、まるで建物の一部のようだった。
誰かの暮らす家を、ひとつの芸術として仕上げようとした当時の空気が、今もそのまま宿っているようだった。

美術館を出ると、目の前には街を一望できる展望エリアが広がっていた。
遠くに見えるのは、朝訪れたサグラダ・ファミリアの尖塔。
バルセロナの街並みの中に、ガウディの魂がしっかりと息づいているのを感じた。
ブライ通りでタパス三昧!最後の一皿が優勝だった

帰り道、活気あふれるブライ通りをぶらり。
タパスバーがずらりと並ぶなか、選んだのは「La Tasqueta de Blai」という人気店。

カウンターには色とりどりのタパスがずらり!
セルフで好きなものを選ぶスタイルで、目移り必至。

まずは3つ選んでみた。
- タラと青ピーマン
- タコの田舎風ポテトサラダ
- ツナ&アンチョビのピンチョス
お供にはもちろんサングリア!

ひととおり食べてまだいけそうだったので、追加で「ソブラサダ(豚肉の生サラミ)」のタパスを。
これが大正解!
くるみとはちみつが添えられていて、甘さと塩気のバランスが最高。
口の中でとろけて、思わず笑みがこぼれた。
最後の一皿が一番お気に入りになったかも。
にぎやかな通りで、いろんな味を少しずつ楽しめるタパスの夜。
旅の疲れも忘れる、大満足のディナーだった。

タパスバーでひと息つけたとはいえ、美術館から宿までは歩いて1時間弱。
朝からずっと動きっぱなしの体には、なかなかこたえる距離だった。
でも、帰り道にライトアップされたカサ・バトリョの幻想的な姿に出会えた瞬間、そんな疲れもどこかへ吹き飛んでいった。
節約できるところはきちんと抑えて、そのぶん、見たいもの・食べたいものには惜しまずお金を使う。
地下鉄に乗っていたら出会えなかった光景にも出会えて、ハードではあったけれど、心はとても満たされた1日だった。
朝からサグラダ・ファミリアを徹底堪能して、芸術とタパスまで楽しんで、これで1万円以下。
自分でも信じられないくらい、満足度の高い1日だった。
8月23日:使ったお金
サグラダ・ファミリアの入場料は高めだったけど、カタルーニャ美術館が無料だったのは本当にありがたかった。
・サグラダ・ファミリア(生誕の塔付)入場料:36ユーロ(=6,365円)
・昼食代(サラダパスタ):3ユーロ(=509円)
・メトロ代(宿→カタルーニャ美術館):2.65ユーロ(=449円)
・夕食代(タパス等):14ユーロ(=2,376円)
合計:9,699円