【166】スルキャまで命がけドライブ!親子で挑むエベレスト街道(2025.10.4〜6)

ネパール

カトマンズを出発し、ジープで山道をぐんぐん進む。

目指すのは、飛行機ではなく陸路でアクセスするトレッキング出発地・スルキャ。

まずはサレリまで、12時間を超える長旅。

土砂崩れによる渋滞にも巻き込まれ、体力も気力もじわじわ削られていく。

翌日はさらに過酷で、未舗装のぬかるんだ崖道、タイヤが水没しそうな“川のような道路”を命がけで走り抜け、ようやくスルキャへたどり着いた。

そして3日目、ついにトレッキング本番。

ヌルさんが荷物を背負い、私は父の背中を見守りながら、一歩ずつ山の道を進む。

ロバの隊列、マニ車、吊り橋──目の前に広がる風景は、まさに「これぞネパール」。

父との挑戦は、まだ始まったばかり。

まずは最初の一歩、モンジョまで歩いた。

10月4日 ジープで山奥の村サレリへ、長い長い移動日(カトマンズ → サレリ)

貸切ジープがホテルまで迎えにきてくれた

朝5時。

まだ空は真っ暗。

そんな静けさの中、ホテルの前に貸切ジープがぴったり時間通りに到着した。

今日からいよいよトレッキングへの道のりが始まる。

車の中にはすでに、ガイドのゲルさんとポーターのヌルさんがいた。

多くのトレッカーは、トレッキング出発点となるルクラ(標高2840m)まで国内線でひとっ飛びするのが一般的だけど、10月初旬はまだ雨季が明けきっておらず、天候が不安定。

最近はフライトの欠航も多発していると聞いた。

そんな情報を事前に得ていたので、日本を出発する前に、山岸さんを通じてゲルさんにジープの手配を依頼しておいた。

飛行機の運行が読めない中で、陸路なら予定が立てやすく安心だと思ったからだ。

そして予想通り、この日は雨で飛行機は欠航。

もし飛行機を選んでいたら足止めになっていたかもしれない。

あらかじめジープを手配しておいて、本当によかった。

2025年10月現在、車で行けるのはスルキャ(Surkya・標高2290m)まで。

そこから先は徒歩になるけれど、ルクラまではもう目と鼻の先の距離。

スルキャまで行ければ、トレッキングのスタートがぐっと楽になる。

道は悪路だけど、その価値はあると判断してお願いすることにした。

カトマンズからサレリ(Salleri・標高2362m)までは20,000ルピー、サレリからスルキャまでは25,000ルピー。

あわせて45,000ルピーをゲルさんに支払い、貸切ジープでの移動が決定。

もちろんもっと安い「乗り合いジープ」もある。

だけどそれは6〜7人乗りの車に9〜10人詰め込まれるスタイルで、かなり過酷。

私ひとりなら節約を優先してそれもアリだけど、今回は69歳の父との旅。

長時間の山道移動をできるだけ快適に過ごせるよう、迷わず貸切を選んだ。

途中のレストランで朝食

ジープに揺られて2時間ほど走ったところで、レストランに立ち寄って朝ごはん。

頼んだのは、チャパティ(ネパールの薄焼きパン)とオムレツ、そしてあたたかいコーヒーのセット。

シンプルだけど、体に優しく染みわたる味だった。

小雨がぱらつく中、再び出発。

ジープは山道をひたすら走り続けた。

 グルミ(Ghurmi)のレストランで昼食

お昼は正午頃、グルミという小さな町のローカル食堂に到着。

ここで昼食タイム。

おかわりができるダルバート

昼ごはんは、ネパール定番の家庭料理「ダルバート」。

ダル(豆スープ)とバート(ごはん)を中心に、野菜のカレー(タルカリ)や漬物(アチャール)が添えられているセットメニューだ。

特徴はなんといっても「おかわり自由」。

店員さんがどんどんおかずをよそってくれるので、遠慮なく好きなものをおかわりできるのが嬉しい。

山道を長時間走ってきた後に、たっぷり温かいごはんでエネルギーをチャージできた。

土砂崩れによる大渋滞

食後のドライブは一気に過酷になった。

山道を進んでいると、突如として大渋滞に巻き込まれる。

何事かと思って外を見ると、昨晩の大雨の影響で土砂崩れが起きたらしく、道路の一部が狭まり、片側交互通行になっていた。

ここでかなりの時間をロス。

予定よりも大幅に遅れてしまい、ようやくサレリの宿に到着したのは夕方5時半。

なんとカトマンズから12時間半の大移動。

延々と続いた山道に、体はすっかりぐったりしていた。

サレリの宿

今日の宿は、電源や電気敷毛布など設備が整っていて一安心……と思いきや、まさかの停電。

大雨の影響か、チェックイン直後に電気が落ちてしまった。

結局、どちらの設備も使えず、ゲルさんにヘッドライトを借りてなんとかしのぐ。

この体験から、「停電時に備えてヘッドライトは必携だな」と実感。

スマホのライトでも代用できるかと思っていたけど、トイレに行くときや着替えのときはやっぱり不便。

明かりは、ちゃんと準備しておくべきだと学んだ。

トイレ付きの部屋

宿の部屋には、なんとプライベートトイレ付き。

山の宿ではトイレは共用が当たり前なので、個室にトイレがあるのはかなりありがたい。

もちろんシャワーはない。

山では数日間シャワーが浴びられないのが通常運転。

これもまた旅の一部。

モモ入りスープの夕食

夕食は、体が温まるモモ(ネパール風餃子)入りのスープ。

バッファロー肉がぎっしり詰まったモモは、ほんのりスパイスが効いていて、ほっとする味。

標高2362mのサレリまで来ると、朝晩は冷え込みが一気に増す。

そんな寒い夜にぴったりの、優しい山のごはんだった。

10月5日 ぬかるみと崖道の悪路を越えて、ついにスルキャへ(サレリ → スルキャ)

宿の食堂

翌朝、食堂で朝ごはん。

昨夜は停電中だったため薄暗がりの中での夕食だったけれど、今朝は太陽の光が差し込み、ネパールの山小屋らしい素朴であたたかな雰囲気をようやく感じることができた。

パンの朝食

今日の朝食は、パンとラッシー、そしてコーヒー。

コーヒーやラッシーも飲んだ

パンは素朴ながらも香ばしく、コーヒーもホッとする味だったけれど、ラッシーは少しクセのある風味で、私はちょっと苦手だった。

インドやネパールではこれまでに何度もラッシーを飲んできたけれど、ここまで味に特徴があるものは初めて。

地域や店によって作り方が違うのかもしれない。

札束との格闘が始まる

そして、昨日から悩まされているのが「札束問題」。

ネパールでは最高額紙幣が1,000ルピー(約1,100円)なので、まとまった金額を持とうとすると、どうしても分厚い札束になる。

トレッキング中、ATMや両替所があるのは途中の「ナムチェ」くらい。

しかもそこも確実に利用できるとは限らず、米ドルは基本的に使えない。

だから最初から多めにネパール・ルピーの現金を持ち込む必要がある。

今回は父と2人分の費用を現金で準備したため、見た目も重量もインパクト抜群な札束に。

2人でそれぞれのウエストポーチに詰め込んで、残りは散策用リュックに分散して管理するという、ちょっとしたお金運搬作戦を実行。

地味に気を使うし、移動中はずっと気が抜けなかった。

サレリからはトラックジープに乗換

出発は朝8時。

本当はもう少し早く出た方がよかったけれど、昨夜の大雨の影響を考慮して、少し遅らせたほうが安全だというゲルさんの判断だった。

私はてっきり昨日と同じジープでスルキャまで行くと思っていたのだが、案内されたのは、地元の人が運転するトラックジープ。

なんと、昨日の車にはトレッキングポール(ストック)を積んだままで、その車はすでにカトマンズへ戻ってしまっていた。

父は膝が悪く、ストックなしでは歩くのも不安なのに……。

朝からショックで頭が真っ白になったけれど、ゲルさんが道中で知り合いからストックを2本借りてくれ、なんとか父の分だけは確保することができた。

本当にありがたかった。

雨上がりの悪路をひたすら進む

出発時には雨はやんでいたけれど、山道は泥だらけで、ぬかるみもひどい。

車は激しく揺れ、頭や体をあちこちにぶつけながらの移動が続いた。

頭上にあるバーにしがみつき、揺れにひたすら耐える。

ぬかるみにタイヤがハマることも

運転を担当してくれたのは、地元で物資輸送を担っているベテランのドライバーさん。

慣れた手つきで車を進めていくものの、深いぬかるみにハマったり、タイヤがパンクしたりと、トラブルはつきもの。

ドライバーやゲルさんたちが泥だらけになりながら、車を引っ張り出したりタイヤ交換をしてくれる姿を、私たちはただ見守ることしかできなかった。

昼食のチョウメン

14時頃、カリコラ(Kharikhola)という村で、ようやく昼食。

時間が押していたので、すぐ出てくるチョウメン(ネパール風焼きそば)を注文。

このあたりから、空がだんだん暗くなってきて、焦りが募る。

もはや川と化した道路

昨夜の大雨のせいで、道はあちこち川のようになっていた。

タイヤが半分くらい水に浸かっていて、流されかけつつも無事対岸へ走行

中でも特にやばかった場所では、私たちは一度車から降ろされ、ドライバーだけが車を運転して突っ切ることに。

タイヤが半分以上水に浸かり、何度も流されかけながらも、なんとか向こう岸まで到達。

見ているこちらも手に汗握る展開で、命がけのドライブだった。

あとで聞いたところ、このドライバーさんは普段からサレリからスルキャまで、生活用品や食料を運んでいるそう。

スルキャから先は車が入れないため、荷物は人や動物が背負って、エベレスト街道の各村へ届けられる。

私たちトレッカーが山の中で快適に過ごせるのは、こうした人たちの存在と努力のおかげなんだと、改めて感謝の気持ちが湧いてきた。

崖っぷちのスリリングな道を進む

スルキャへ向かう最後の道は、断崖絶壁のスリル満点コース。

幅の狭い山道を、対向車とすれ違いながら、ガタガタ道を慎重に進んでいく。

崖の下は何百メートルもありそうで、見下ろすと足がすくむ。

これまでアフリカなどで散々悪路を経験してきたけれど、ここが人生ナンバーワンに怖かった。

心臓がキュッとなるような道を進み、ようやくスルキャの村に到着したのは18時半。

空はすっかり真っ暗だった。

スルキャの宿

今日の宿は、電源もトイレもない、シンプルな山小屋。

ベッドが2台置かれているだけの簡素な部屋だけど、雨風をしのげるだけでもありがたい。

スパゲッティの夕食

夕食はスパゲッティ。

ただし味はなぜかカレー風味で、ちょっと不思議な感じだった。

でも、過酷な道のりのあとに食べるあたたかいごはんは、それだけで心がほっとする。

10月6日 父と歩き出すエベレスト街道、モンジョで宿泊(スルキャ → モンジョ)

アップルパンケーキの朝食

いよいよトレッキング本番が始まる日。

この日はスルキャ(Surkya・標高2290m)からモンジョ(Manjo・標高2835m)まで歩く予定。

朝ごはんはアップルパンケーキで、素朴な味がした。

体にエネルギーをチャージして、8時に宿を出発。

いよいよトレッキングスタート!

今日からいよいよ本格的な山歩きが始まる。

順番は、先頭に父と私の大きなバックパックを背負ったポーターのヌルさん、そのあとに父、私、最後にガイドのゲルさんという並び。

足場が悪いところではゲルさんが父のサポートに回ってくれたので、私は一番後ろから見守るように歩いた。

父は高齢なので、できるだけ負担を減らすために完全手ぶら。

その分、私が2人分の身の回り品が入ったリュックを背負って歩いた。

手ぶらで歩いている人は父以外にほんの数人しかおらず、ほとんどの人が小さなリュックを背負っていた。

正直しんどかったけれど、それでも父と一緒にエベレスト・ベースキャンプやカラパタールまで行きたい気持ちの方が大きく、気合いで歩いた。

ロバと吊り橋、ネパールらしい風景

道中では、荷物を背負ったロバたちが吊り橋を渡っていく姿を何度も見かけた。

背中に食料や物資を積み、列になって谷を渡る姿は、まさに「ネパールの山岳地帯」といった風景で、見ていて絵になるほどだった。

マニ車を回しながら歩く

ネパールの山間部では、道沿いにチベット仏教の「マニ車」が並んでいることがある。

内部にはお経が納められていて、手で回すと唱えたのと同じ功徳があるとされている。

歩きながらせっせと回し続けたけれど、こんなにも道中で祈ったのは人生初かもしれない。

パクディンに到着

13時ごろ、ようやくパクディン(Phakding・標高2610m)に到着。

ここで昼食をとることに。

焼き飯の昼食

この日のチョイスは、卵ののった焼き飯。

薄味ながらも美味しかった。

聞けば卵は、カトマンズからスルキャまで車で運ばれ、その先は人や動物が背負って山道を登ってくるとのこと。

割れやすい卵をこんな標高まで手作業で運んでいるなんて、本当にすごい。

自分用のストックを現地調達

やはり山道を歩くには、両手でバランスをとれるストックがないと不安定で疲れる。

実際に歩きながら「これは無理だ…」と感じ、途中のトレッキング用品店で自分用のストックを新たに2本まとめて購入することにした。

カトマンズで買うより少し割高だったけれど、これが大正解。

手にストックを持てるようになってからは、歩きやすさが全然違った。

体の負担もぐっと減って、気持ちにも余裕が生まれた。

なぜかついてくる犬

途中から、なぜか1匹の犬が私たちについてくるようになった。

どうやらトレッカーから食べ物をもらえることを覚えていて、今回ももらえると思っているらしい。

でも私は何も持っていないし、狂犬病のリスクもあるので、必死に追い払おうとした。

それでも何キロもついてきて、全然離れてくれない。

きっとお腹が空いていたのだろうけど、正直ちょっと怖かった。

モンジョのチェックポイントで入域料支払い

モンジョ(Manjo・標高2835m)に到着。

ここには入域料のチェックポイントがあり、2つの料金を支払う必要がある。

  • クーンブ・パサン・ラム自治体入域料:3,000ルピー
  • サガルマータ国立公園入園料:3,000ルピー

合計一人あたり6,000ルピー。

支払いはすべてゲルさんがやってくれたので、私たちは近くのベンチで休憩。

こういうときに、ガイドさんの存在のありがたさをしみじみ感じる。

吊り橋を渡って、今日の宿へ

料金を払い、吊り橋を渡った先に、今夜の宿があるモンジョの村が見えてきた。

日が傾き始める中、最後の力を振り絞って歩く。

マンジョの宿に到着!

17時、ついにモンジョ(標高2835m)のロッジに到着!

歩数計を見てびっくり。

なんと35,400歩も歩いていた。

ナムチェまでは高山病のリスクも低いので、距離を稼ぐ人が多いとは聞いていたけれど、ここまでとは…。

足はパンパンで筋肉痛がひどく、タイガーバームをたっぷり塗りこんだ。

マンジョの宿

この宿では、部屋にも食堂にも電源がなく、スマホの充電はモバイルバッテリー頼み。

インターネットも使えない。

有料のシャワーを浴びたけれど、出てきたのはぬるいお湯。

寒すぎて、思わず風邪をひきそうになった。

食堂のストーブであったまる

体を温めるために、ストーブのある食堂に避難。

ここでようやくほっと一息つけた。

チョウメンとじゃがいものグリルの夕食

この日の夕食は、チョウメンとじゃがいものグリル。

寒い地域だからか、じゃがいもはホクホクでとても美味しかった。

明日は標高差600mを一気に登り、ナムチェ(Namche・標高3440m)を目指す。

ナムチェはクーンブ山域最大の村で、トレッカーにとっての拠点のような場所。

高度順応のために2泊する人が多く、私もそこで2泊する予定。

ロッジやカフェ、ベーカリー、登山用品店、ATMまでそろっていて、ここで寝袋や常備薬を調達し、後半戦に備えるつもり。

「明日ここを越えれば、しばらくは休憩できる!」

そう思いながら、疲れた体をベッドに沈めた。

10月4日〜6日:使ったお金

10月4日

・貸切ジープ代(カトマンズ→スルキャ(Surkya)):45,000ルピー(=48,842円)
・朝食代(パン等):550ルピー(=596円)
・昼食代(ダルバート):790ルピー(=857円)
・ジープチップ代:500ルピー(=542円)

合計:50,837円

10月5日

・夕朝食宿代(宿代2,000ルピー含む):4,580ルピー(=4,971円)
・昼食代(チョウメン):400ルピー(=434円)
・ジープチップ代:2,000ルピー(=2,170円)

合計:7,575円

10月6日

・夕朝食宿代(宿代1,500ルピー含む):4,300ルピー(=4,667円)
・水:200ルピー(=217円)
・昼食代(焼き飯等):1,200ルピー(=1,302円)
・ストック(自分用):2,500ルピー(=2,713円)
・入域料(2人分):12,000ルピー(=13,024円)

合計:21,923円