朝8時、マスカットから長距離バスで出発。
目指すのは、ワヒバ砂漠の玄関口、Al Wasilの町。
バスを降りてしばらく待っていると、ベドウィンの迎えの車が到着した。
そこから、いよいよ砂漠の奥へと向かう。
灼熱の42度。
熱風に吹かれ、容赦ない日差しにさらされながら、たった一人で耐えた時間。
命の危機を肌で感じながら、それでもなぜ旅を続けるのか、自分自身に問いかけていた。
昼間の過酷な試練を越えたからこそ、夜空にひときわ大きく流れた流れ星は、神様からのご褒美みたいに思えた。
今回は、灼熱のワヒバ砂漠でのベドウィンキャンプ体験をレポートします。
ツアーに頼らず、自力でワヒバ砂漠へたどり着くまで
マスカット発着のワヒバ砂漠1泊2日ツアーは、ひとり参加だと13万円超え。
あまりの高額さに驚く。
レンタカーを使わない旅人たちは、どうしても高いツアーに頼らざるを得ないのが現状。
それでもなんとか、もっと安く砂漠キャンプできないかと探し続けた。
そして見つけたのが、砂漠の玄関町・Al Wasilまでバスで行き、そこから無料送迎してくれる「Sandglass Camp」。
Googleマップと口コミを頼りにたどり着いたこの選択肢に賭けてみることに。
キャンプを運営するベドウィンのサイードとWhatsAppで連絡を取り合い、いざ出発。

バスは港町スール行き。
Al Wasilで降りるため、Googleマップでこまめに現在地を確認しながら、景色を眺めていた。

バスは、町のコーヒーショップ前で停車。
ここがAl Wasilだ。
降りて迎えを待っていると、すぐに地元の人たちが話しかけてくる。
「どこに行くの?」「何か困ってない?」
外国人が珍しいのだろう。
オマーンの人たちの優しさが、じんわりと心に染みる。
隣の電気屋さんの店員も「暑いから中で待ちなよ」と声をかけてくれた。
お言葉に甘えて涼しい店内で待たせてもらう。
そして、しばらくして──サイードの車が到着。

迎えの車に乗り込むと、ぽつぽつと緑が生える砂漠をぐんぐん走る。
どんどん何もない世界に吸い込まれていくような感覚。
10分ほどで、今日の宿泊地「Sandglass Camp」に到着。
レースに生きるベドウィン、サイードとラクダたち
キャンプ地に着くと、すぐ近くにラクダがいるという。
サイードと共に、ラクダたちに会いに行った。

サイードは、ベドウィンキャンプの運営と並行して、ラクダレース用のラクダも飼育している。
オマーン伝統のラクダレースは、昔は少年が騎乗していたけれど、今はロボットジョッキーが主流。
優勝賞金は、なんと100万ドル。
サイードは夢を託して、大切にラクダたちを育てていた。

レースで優秀な成績を収めたラクダは、次世代を担う子どもを産む。
逆に、レースに向かないラクダはバーベキューになるというから、ラクダたちも必死だ。

先週生まれたばかりの赤ちゃんラクダもいた。
思っていたより大きな体に、思わず目を見張る。

赤ちゃんが母ラクダのお乳を飲んでいる姿は、なんとも愛らしい。
この子もいずれ、レースに挑む日が来るのかもしれない。
ベドウィンが営む「Sandglass Camp」にチェックイン
サイードが営む「Sandglass Camp」は、簡素ながら最低限の設備がしっかり整っていた。

早速テントに荷物を置きに入る。

出入り口には鍵がなく、紐で入り口を結ぶだけの造り。
砂漠のど真ん中だから、盗難の心配もない。

テントにはベッドが2台。
中央の天井には、控えめな豆電球がひとつ。

テントのそばにはシャワー&トイレブースがある。

シャワーの水は、太陽に熱せられて熱湯になっていた。
まさに天然のホットシャワー。
トイレは水洗式。
下水処理はどうなっているのか分からないが、水洗トイレがあるだけでありがたい。

キャンプではソーラーパネルで電力をまかない、最低限の明かりを確保していた。

裏手には、なだらかな砂丘が広がっている。
昼間は暑すぎて外に出られないので、夕暮れを待って探検に出かけることに。

テントが暑すぎる昼間は、食堂テラスで過ごす。

カーペットとクッションが敷き詰められ、ゆったりとくつろげる空間だ。

サイードがアラビックコーヒーやジンジャーティ、デーツをふるまってくれた。

サイードの話によると、彼自身は生まれた時からベドウィンテントの定住生活だったらしい。
けれど、両親や祖父母の時代は、砂漠を移動しながら暮らす本物のノマドだったという。
2004年には、彼も家族と共に近代的なElectronicハウスに移り住んだ。
時代の変化を肌で感じる。
昼食を準備してくれたあと、サイードは「夕方また来るね」と言い残し、自宅へ帰っていった。
広い広い砂漠に、ぽつんと取り残されたのは私ひとり。
静かな、そして少し心細い午後が始まった。
42度の熱風と灼熱に耐えた、ワヒバ砂漠の午後

昼食はビリヤニ、チキン、カレー、サラダ。
盛られたビリヤニの量が多くて、半分しか食べきれなかった。
砂漠を眺めながらひとりで食べる昼食は、何とも贅沢な時間。

ここ「Sandglass Camp」は、宿泊代(夕食・送迎付き)が22.82リアル(=8,521円)。
ワヒバ砂漠の中でも超格安クラスだ。
さらにオプションで、朝食5リアル(=1,867円)、昼食2食分で12リアル(=4,481円)を追加。
合計39.82リアル(=14,870円)で、ワヒバ砂漠を満喫できるプランが完成した。
マスカット〜Al Wasil間の往復バス代(4.2リアル=1,554円)を合わせても、総額はたったの16,424円。
ワヒバ砂漠1泊2日の現地ツアーが13万円超えという現実を考えると、これはもうツアー会社泣かせの価格設定(# ゚Д゚)

とはいえ、マスカット↔Al Wasil間のバスは一日一便のみ。
行きは11:20にAl Wasil着、帰りは16:49発と、昼間の暑い時間帯を砂漠で過ごさなければならない。
冬場など気温が低い時期ならまだしも、真夏の自力訪問は覚悟が必要だ。
できればAl Wasilの町にあるカフェで日中をやり過ごすのが無難。
この日の最高気温は42度。
熱中症寸前になりながら、サバイバルタイムへ突入した。
サイードが用意してくれた凍らせた水のペットボトルで、脇・首・足の付け根を冷やす。
命綱のような冷却作戦だった。
ときおり吹き荒れる「シャマール(Shamal)」と呼ばれる砂漠風に、何度も意識が遠のきそうになる。
温風というより熱風パンチ。
まるでドライヤーの熱風を全身で浴びているような感覚。
風がある分マシな気もしないでもないが、吹けば吹くほど体力を削られるという矛盾地獄。

さらに、午後3時、4時と太陽が傾くにつれて、テラスの日陰も消えていった。
直射日光をまともに浴びながら、ただひたすら暑さと熱風に耐える時間が続く。


太陽は容赦なく照りつけ、体力を奪っていく。
苦し紛れにクッションでバリケードを作り、かろうじてできた日陰に寝そべった。

バリケードの中で身を横たえると、顔にハエがたかってくる。
ハエを払いながら、自分に問いかける。
「なんでこんなところにいるんだろう。」
「こんなことして、意味あるのかな。」
「今すぐ冷房の効いた部屋で寝たい……。」
そんな弱音が頭をよぎっては消えた。
みんな、快適な4WDツアーでワヒバ砂漠にやってくる。
きれいなホテルや観光地で得られるのは「用意された感動」だ。
けれど、命の重みや大地の鼓動みたいなものは、そこでは感じられない。
私は、ベドウィンたちがこの砂漠で生き抜いてきた感覚を、自分の肌で、目で、心で、全部で感じたくて、ここまで来た。
でも、それを知るためには、何かを失わなければならない。
快適さだったり、エアコンだったり──。
試練を乗り越えたとき、初めて見える景色がある。
苦しみの中にある今こそ、旅の真髄を味わっているのだと、そんなふうに思った。
太陽が沈む砂漠へ|赤く染まる砂丘を歩く

18時頃。
ようやく日が傾き、暑さが少しずつ和らいでくる。
キャンプ地には、4WDでサファリドライブに来た外国人観光客の姿がちらほら。
私は乗り物には頼らず、自分の足で砂丘を登ることにした。

昼間、あれほど私を苦しめた太陽が、いま静かに砂漠の向こうへ沈んでいく。

砂丘の砂はもう熱を失っていて、裸足で歩くと心地いい。

赤みを帯びた砂紋は、夕陽を浴びてさらに深い赤へと染まっていった。
まるで砂漠が燃えるような光景だった。

ワヒバ砂漠は、オマーン東部に広がる広大な砂漠。
南北に約180km、東西に約80kmというスケールを誇る。
赤い砂、風紋、静けさ──。
そのすべてが「生きている砂漠」と呼ばれる理由だった。

日没直後、朱色に染まる砂丘の美しさは、言葉を失うほどだった。
約1時間、砂丘を歩き、キャンプへ戻った。
そしてシャワーを浴び、待ちに待った夕食へ。
中東料理シャワルマと、満天の星空と流れ星に包まれた夜
夕食は、4WDのサファリドライブから戻ったドイツ人夫婦と一緒に。
彼らはレンタカーでオマーンを旅していて、翌朝にはまた次の目的地へ向かうらしい。
真昼間の砂漠でサバイバルしている私の話をすると、「すごい日本人だね!」と驚かれた。

夕食には、シャワルマ(チキン)、フムス、カレー、サラダ、果物などが並んだ。
料理は三人でも食べきれないほどたっぷり。
シャワルマは、炙った香ばしいチキンが絶品だった。
中東の伝統の味をしみじみと噛みしめる。

食後は、サイードと星空観察。
しし座、おとめ座、北斗七星……。
彼が教えてくれる星座を眺めながら、テラスに寝転んだ。
そして夜空を見上げているうちに──大きな流れ星が、二度、視界を横切った。
きっと、大昔のベドウィンやキャラバンたちも、この同じ星空を見上げていたんだろうな。
時代は変わっても、変わらないものがある。
そう思ったら、胸がいっぱいになった。
最後に見た流れ星は、昼間の灼熱を耐え抜いた私への、神様からのご褒美のように思えた。
4月23日:使ったお金
今日の出費はゼロ!
マスカット〜Al Wasilのバス代(4.2リアル=1,554円)は別日にすでに支払い済み。
キャンプ宿泊代の支払いは翌日なので、今日はお金を使わず過ごせた。