夜明け前、月明かりに照らされた静かなワヒバ砂漠へ。
凛とした空気のなか、私は砂丘を歩き、朝焼けの時間を迎えた。
そのあと、ラクダたちの朝ごはんタイムに立ち会い、ベドウィンとラクダの深いつながりにふれる。
この日もまた、誰もいない砂漠で、灼熱の気温に耐えながら一人きりで日中を過ごすことになった。
それは、ただの観光では味わえない、命の営みと自然への畏敬を教えてくれる体験だった。
早朝のトレッキング、ラクダたちとのふれあい、そして灼熱の孤独な昼下がりまで──ワヒバ砂漠で過ごした、忘れられない一日の記録。
朝日に染まる砂漠を歩く|早朝トレッキング
早朝5時、まだ薄暗く、月明かりが静かに砂漠を照らしていた。
朝日を見るため、砂丘へ出発する。

砂の丘で腰をおろし、凛とした空気のなか、静かに太陽を待った。
夜明け前の砂漠の冷たい空気が、心地よかった。

やがて、空がゆっくりと明るみを帯びてくる。
空一面に広がるグラデーションが美しく、しばらく言葉を忘れる。

6時前、ついに砂漠に朝日が昇った。
夜の間は毛布をかぶって快適に眠れるほど涼しかったのに、この太陽が、一気に砂漠を灼熱地獄へと変えていくのだと思うと、自然の力に圧倒される。

朝日に照らされて真っ赤に染まる砂丘。
砂に伸びる影とのコントラストが、とても美しかった。

足元には、小さな虫の足跡が残っていた。
夜のあいだ、どこかへ旅していたのだろうか。

どこまでも続く砂丘と、朝日に照らされた美しい砂紋。
ずっと眺めていたくなる光景だった。
ラクダと迎える、砂漠の朝
砂丘を下ろうとしたとき、サイードのラクダたちに餌やりをしている人影を見つけた。
引き寄せられるように、ラクダたちのもとへ向かう。

たくさんのラクダが、バケツに顔を突っ込んで勢いよく水を飲んでいた。
サイードの兄弟が、干し草を運び、水を与え、忙しそうに世話をしている。

何度も水を汲み、バケツを運ぶサイードの兄弟を見ながら、ラクダの世話も簡単ではないのだなと思った。
ラクダの食事は1日2回、朝と晩だけ。
サイードの話では、彼の両親や祖父母たちも、日中の暑さを避け、朝晩にだけ家畜の世話をしていたという。
そんな昔のベドウィンたちと変わらない風景を、いま目の前に見ている。
それがなんだか嬉しかった。

長い首を垂らして、水をズビズビと飲むラクダたち。
生きる力に満ちた音だった。
サイードの兄弟が「ラクダと一緒に写真を撮ってあげる」と声をかけてくれた。

猿轡をしていないラクダに近づくのは少し怖かったけれど、サイードの兄弟がラクダの頭を優しく撫で、話しかける様子を見て、彼らの深い絆を感じた。
ベドウィンにとってラクダは、ただの家畜ではない。
命を運び、ミルクを与え、寒さや砂嵐からも守ってくれる、かけがえのない相棒だった。
近代的なElectronicハウスに暮らす今も、ベドウィンにとってラクダは変わらぬ人生のパートナーなのだと、しみじみ思った。

長いまつ毛と優しい眼差しをたたえたラクダ。
その表情から、主人に愛されていることが伝わってきた。

ラクダの飼育場所からテントまでは目と鼻の先。
けれど、暑さのなかを歩くのは大変なので、サイードの兄弟が車で送ってくれた。
灼熱の砂漠で過ごす、最後のひととき
7時半、サイードが朝食を準備してくれた。
ドイツ人夫婦もテントから起きてきて、3人で朝食を囲む。

温かいチーズサンドとビーンズのトマトソース煮、果物、ゆで卵、チョコクロワッサン、オレンジジュース──朝からボリューム満点のメニューだった。

話を聞くと、ドイツ人夫婦には6歳と7歳の子どもがいるらしい。
けれど、子どもを置いて夫婦だけの旅行を楽しんでいる。
日本とは違う文化に少し驚きつつ、自分たちの人生も大切にする生き方に、憧れを覚えた。

彼らは朝食を食べ終えると、すぐに次の目的地へ向かうという。
見送りのときにお互いに写真を撮り合い、お互いの旅の無事を祈って別れた。
再び一人になった私は、また砂漠でぼっちタイムに突入する。

スマホの充電が切れそうだったので、ソーラーインベーターのスイッチを入れる。
すると「キュイーーン!!」という大音量がテラスに鳴り響く。

発電装置が故障しているのか、スマホもモバイルバッテリーも充電できなかった。

気持ちを切り替え、デーツとジンジャーティでティータイム。
暑さに耐えきれなくなったら、シャワーを浴びてリフレッシュした。
今日は41度。
昨日より1度低いだけなのに、少しだけ体が楽だった。
もしかしたら、私の体が暑さに適応してきたのかもしれない。
人間の身体は、思ったよりもたくましい。

14時頃、サイードがランチを届けにやってきた。
リクエストしていた果物とサラダを持ってきてくれた。

サラダと言っても、買ってきたままの野菜を、切らずにそのままドサッと盛っただけ、というワイルドなスタイルだった。
「ねこが食べたがってたサラダだぞ(‘A`)」と、ドヤ顔のサイードに思わず笑ってしまった。
皮を向いていない生の人参を私は丸かじりした経験がない(笑)
サイードがペットボトルの水で野菜を洗ってくれて、「さぁ、いっぱい食べな」とすすめてくれた。
スイカ、ぶどう、トマト、葉っぱ一枚。
そして、チキンとビリヤニも少し分けてもらい、お腹いっぱいになった。
食べきれなかった野菜やお菓子は、サイードが袋に詰めて持たせてくれた。
サイードいわく、ここSandglass Campは5年前から営業しているが、35度以上の気温で日中滞在した宿泊客は、後にも先にも私だけだという。
「42度の灼熱を耐えた日本人女性の話、これからみんなに語っていくよ!」
サイードが嬉しそうに言った。
ただ砂漠にいただけなのに、なんだかすごいことを成し遂げた気分になって、少し誇らしかった。
ちなみに来月の砂漠は50度を超えるらしい。
42度でも限界だったのに、50度でも生き抜くベドウィンたちを心から尊敬する。
Al Wasilからバスでマスカットへ帰還
16時、サイードの車でAl Wasilのバス停へ向かう。

途中、道路を歩くラクダたちとすれ違った。

砂漠で放し飼いにされているサイードのラクダたちだ。
彼らは、夕方になると自然に餌場へ戻ってくるという。
なんて賢いんだろうと思いながら、車の窓から眺めた。
バス停前のコーヒーショップで車を止めてもらい、サイードにお礼を言ってお別れする。

バスが来るまでの間、カフェでひと休み。
扇風機の風に吹かれながら、キウイスムージーを飲む。
甘酸っぱい味が、熱中症気味の体に染みわたって、心底おいしかった。

出発の20分前にはバス停にスタンバイ。
日陰がないので暑いけれど、オマーンのバスは定刻より早く来ることもある。
おとなしくバス停付近で待つ。

案の定、バスは10分ほど早く到着。
乗客を乗せるとあっという間に発車し、ひんやり冷えた車内にホッとした。
たった1日ぶりの冷房なのに、まるで生き別れの兄弟に再会したかのような感動を覚えた。
私はもう、冷房なしでは生きていけない体になってしまったようだ(‘A`)
でも──日本で、屋根があって、壁があって、雨風をしのげて、夏は涼しく、冬はあたたかい場所で暮らしていた日々。
命の危機を感じずに生きられることが、どれだけ恵まれたことだったのか。
たった2日間だったけれど、ワヒバ砂漠で過ごした時間が、それを改めて教えてくれた。
当たり前なんかじゃない。
あの暮らしに、心から感謝したいと思った。
──明日はいよいよ、次の国、ヨルダンへ。
4月24日:使ったお金
ワヒバ砂漠でのキャンプ宿泊代(送迎、夕食、朝食、2回の昼食付き)がこの価格なんて、どう考えても超破格。
・宿代(ワヒバ砂漠):40リアル(=14,901円)
・カフェ代:1リアル(=372円)
・宿代(マスカット):2,175円
合計:17,448円
これまでの旅費の合計

ウズベキスタン出国からオマーンまでの旅費の合計は、102,151円でした。
・航空券(ウズベキスタン→オマーン):22,180円
・オマーンでの滞在費(9泊):クレカ払い24,064円+キャッシング55,907円=79,971円
合計:102,151円
日本出国からオマーンまでの旅費の総合計は、263,651円でした。