スペイン・バレンシア郊外の小さな町ブニョールで、毎年8月末に開かれる「トマト祭り(ラ・トマティーナ)」。
世界中から数万人が集まり、街全体が真っ赤なトマトの海と化す“世界の奇祭”だ。
今回ついに初参加。
チケット購入からバス移動、グッズ引換やロッカー利用まで、最初から混沌だらけ。
会場に入ると名物「生ハムの木」に群がる人々、盛り上がる熱気の裏でスリも多発。
正午、トマトを積んだトラックが通りに現れた瞬間、1時間の壮絶なトマト合戦が幕を開けた。
頭にゴツン、顔にバチンと直撃する硬いトマト、全身を覆う酸っぱい匂い、寒さと痛みに震えながらも必死に投げ返す。
終わった頃には全員ボロボロ、街は地獄絵図のあとさながら。
シャワーも更衣室もなく、地元の人のホースでなんとか汚れを落とし、ようやく帰路へ。
準備から体験まで、トマティーナの一日を丸ごとレポート。
チケット購入からバス移動まで|参加準備の流れ
今日はついにトマト祭りの日。
スペイン・バレンシア郊外の田舎町ブニョールで、毎年8月末に開催される「トマト祭り(ラ・トマティーナ)」は、世界中から観光客が集まる一大イベントだ。
参加はチケット制で人数制限があるため、事前に公式サイトなどで購入しておく必要がある。
今回は公式サイトからチケットを手配。
さらに別料金で、バレンシアからブニョールまでの往復バス、パエリア&サングリア、ロッカーをつけたら、合計で90ユーロ(=14,899円)。
お祭り一日分としてはなかなか高額だ。
出発地は市内中心部のソロッラ駅か、郊外のビオパークのどちらかを選べる。
宿からの距離を優先して、少し割高ではあったが迷わずソロッラ駅発を選んだ。

朝6時半、バレンシアのソロッラ駅に到着すると、駅前の道路には大型バスがずらりと並んでいた。

ピンクのトマティーナTシャツを着たスタッフの姿が見えて、すでにお祭り気分が漂っている。
まずは腹ごしらえをしようと駅前のマクドナルドへ。
メニューには、トマトを塗ったバゲットとコーヒーのセットという、なんともスペインらしい朝食があったので、それをテイクアウト。
買っている最中に、一緒に参加予定のコウダイさんとヒナコさんから「バスは自由席で、満員になったら出発するよ」と連絡が入り、急いでバスに乗り込むことにした。

3人で同じバスに座れて一安心。
バスの車内はまだ薄暗かったが、そこでさっそく朝マックを広げる。

トマトソースとオリーブオイルをたっぷりしみ込ませたバゲットとカフェオレ。
スペインらしい組み合わせでお腹を満たし、祭りへの準備は万端だ。

バレンシアからおよそ40分で、バスはブニョールの街外れに到着。
まわりに廃墟が点々とする寂しい空き地が乗降場所になっていて、特に案内やアナウンスはない。
とにかく周囲の人の動きを真似て進むしかなかった。

当日の流れはざっくり言うとこんな感じ。
- バス乗降場所 → 市街地へ移動
- グッズ引換とロッカー利用
- 有料エリアの入口から会場に入場
- さらに奥に進むと「生ハムの木」のある広場に到着
サン・ルイス通りがメイン会場で、その奥の広場では木の棒によじ登る人だかりを眺めることができる。
私も初参加だったので最初は右も左もわからず混乱したが、運営が大きく変わっていなければ、来年もだいたいこの流れだと思う。
これから行く人の参考になれば嬉しい。
グッズ引換とロッカー利用、持ち物・服装のポイント

空き地から砂利道を抜けて市街地へ進むと、大行列にぶつかった。
何の列か最初はわからなかったが、どうやらグッズの引換所。
とりあえず大人しく並ぶ。

結局1時間も待ってようやくカウンターへ。
スタッフにEチケットのQRコードを見せると、グッズが手渡された。

内容は、トマティーナTシャツ、リストバンド、そしてロッカー・パエリア・サングリア用のコイン。
なぜかロッカーとパエリアのコインが1枚ずつ多く入っていた。
早期購入特典か私が予約をミスったかは不明だが、多い分には問題なし。

次に、となりにあるロッカーへ向かった。
とはいえ、実際には屋外に設けられた手荷物預かり所のような簡易的な場所だ。

カウンターでコインと荷物を渡すと、スタッフが棚に置いてくれて、代わりに番号札を渡される。
祭りが終わったら、この札を提示して荷物を受け取る仕組みになっている。
ただし、ここに貴重品を預けるのはおすすめできない。お金やスマホは必ず身につけ、防水ケースに入れて持ち歩くのが鉄則だ。
トマティーナ持ち物・服装のポイント
- 動きやすく、汚れてもいい服
全身トマトまみれになるので、捨ててもいい服が安心。配布Tシャツを記念に残したい人は、別のTシャツで参加するのがおすすめ。 - フィット感のあるゴーグル(水泳用など)
トマト汁が目に入るとかなり痛い。サングラスよりも密着度の高いゴーグルがベスト。 - スニーカーまたはマリンシューズ
サンダルやクロックスは脱げやすく危険だし、地面も滑りやすいため、しっかり足を守れる靴が安心。特にサンダルやビーチサンダルは、人混みの中で足を踏まれるとかなり痛いので避けたほうがいい。スニーカーやマリンシューズなら安全性も高くおすすめ。祭りが終わった後は汚れた靴を脱いで帰れるように、履き替え用のビーサンを用意しておくと便利だ。 - 着替え一式とタオル
祭り後は全身トマトジュース状態になるが、更衣室やシャワーは基本的にない。地元の人がホースやバケツで水をかけてくれるが、完全には落ちない。女性は屋外で簡単に着替えられる服装が安心。髪の汚れが気になる人はシャワーキャップもあるといい。 - 防水ケース(首下げ式)
スマホや少額の紙幣だけを入れる。クレカやパスポートは絶対に持ち込まないこと。 - ロッカーの事前予約
大きな荷物は必ずロッカーへ。ただし貴重品は入れず、身軽な状態で参加すること。
有料エリア突入|“生ハムの木”周辺はスリ多発ゾーン

荷物を預けて身軽になったら、道路に引かれた青い線をたどりながら会場の有料エリア入口へ向かう。

道中には簡易トイレがいくつも設置されているので、空いている場所を見つけたら早めに済ませておくのがおすすめだ。
トイレットペーパーは運良く残っていることもあるが、ない場合が多いし、手洗い用の水も出ないことがほとんど。
準備しておくに越したことはない。

やがて会場に近づくと、家々の壁や窓に大きなビニールを張り巡らせている住民の姿が目に入る。
これから始まる“惨劇”に備えた防御策なのだろう。

市民プールのある三叉路が、有料エリアの入口になっていた。
ここでスタッフにリストバンドを提示して中へ入ると、目の前には祭りのメイン会場であるサン・ルイス通りが真っすぐに延びており、両脇の家はほぼすべてブルーシートで覆われている。

祭り開始前のまだきれいな状態で記念写真を撮影。
かわいいデザインのトマTに、水陸両用の短パン、ゴーグル、防水ケース、そしてマリンシューズと準備は万端だ。
ちなみにこのマリンシューズはエジプトのダハブで買って以来、ザンジバルで使ったきりずっとカバンの底で眠っていたもの。
ついにここで日の目を見たと思うと、持ち続けていてよかったと心から思う。
通りを歩いていると、住民たちが窓からホースやバケツで水をまいてくる。
うっかりスマホを出していたら一瞬で壊れてしまうので、油断は禁物だ。
上記の地図の場所まで来ると広場に出て、そこでは露天のバーが開いていてビールやサングリアを購入できる。

私はミニサイズのサングリアを3ユーロ(=518円)で買った。
祭り価格で高いかと思っていたが、意外と良心的で安心した。
この広場には通称「生ハムの木」と呼ばれる名物がある。
実際には長い柱が立っていて、その頂上にご褒美として生ハムが吊るされるのが通例。
参加者は全身ずぶ濡れになりながらヌルヌルの柱をよじ登り、生ハムを奪おうと挑むらしい。
ところが、今年はなぜか生ハムが掛かっていなかった。

それでも大勢が柱に群がり、人間ピラミッドを作って登ろうとする。
スパイダーマンのコスプレをした男性が一瞬てっぺんに届きそうになったが、ピラミッドが崩れて失敗。
私の仲間のコウダイさんとヒナコさんも挑戦していたが、私は怖くて見学だけにした。
結果的にその判断は正しかった。
というのも、この「生ハムの木」の周辺はスリの温床になっていたからだ。
私の知る限りでも、日本人旅行者3人がここでスマホやパスポートを盗まれている。
そのうち一人はiPhoneとパスポートを同時に失い、夜にはアップルの復旧手続きや大使館での渡航書申請の進め方を一緒に考えてサポートした。
周囲の人たちは「登れよ!」と気軽に声をかけてくれるが、その中に悪意ある人間も混じっている。
常に警戒心を持って行動することをおすすめしたい。
トマト合戦スタート!1時間のカオス体験レポート

結局だれも柱を制覇できないまま時間が過ぎ、正午ちょうどに祭り開始の合図が鳴り響いた。
狭い通りをトマトを積んだトラックがのろのろ進み、荷台から容赦なく真っ赤な弾丸が降り注ぐ。
頭にゴツン、顔にバチンと当たるたび、笑い声と悲鳴が入り混じり、一瞬でカオスに包まれた。
1945年、若者たちの投げ合いから始まったとされるこの祭りは、いまやブニョールを象徴する行事。
売り物にならない規格外のトマトが使われるが、硬いものも混ざっていて直撃すると本気で痛い。

トラックが何度も往復し、そのたび道路は真っ赤に染まる。
足元はトマトの海と化し、上からは水やトマトが次々と降ってくる。

全身びしょ濡れで笑っているのに、寒さで震えるほど。
心の中で「もう終わって!」と叫びながらも、手にしたトマトを投げ返し続けた。

やがて足首までトマト汁に浸かり、鼻をつく酸っぱい匂いに吐き気すら覚える。
痛いし、寒いし、臭いし…限界かと思った瞬間、終了の合図。

約1時間の狂気は終わり、みんな一斉に会場を後にした。
終了後のシャワー事情と帰り道の注意点まとめ

通りはすぐにスタッフの高圧ホースで洗い流され、嘘のように元の姿を取り戻す。
トマトの酸のおかげで、むしろ祭り前より道がきれいになるとも言われている。
ただ、シャワーや更衣室はなく、街の人がホースで水をかけてくれるのが唯一の救い。
行列に並んで少しずつ汚れを落とすが、完全にはきれいにならない。
私も住民に水をかけてもらったもののほとんど落ちず、バスに乗れないかもと焦った。
そんなとき偶然、水をしっかり使える場所を見つけてようやく8割方の汚れを落とせた時は、本当にありがたく感じた。

途中で道に迷いながらも、なんとかグッズ引換所まで戻ってきた。
来年行く人は、バス乗降場所とグッズ引換所をGoogleマップにピンしておくと帰りに迷わず安心だ。
ここでサングリアとパエリアを受け取るのだが、列が長く並ぶのに時間がかかる。
私が列に並んでいる間に、コウダイさんとヒナコさんが私の荷物をロッカーから引き出してきてくれた。

2人はパエリアのオプションをつけていなかったので、3人でシェア。
野菜とチキンの2種類があり、それぞれ少しずつ味わった。
帰り道にも屋台はあったので必須ではないが、心配なら事前に付けておくといいだろう。
ただ正直、疲れて早く帰りたい気持ちもあり、バレンシアに戻ってから食べるのも一案だ。
食後はバスに乗るために着替え。
更衣室はなく、女性は特に工夫が必要だ。
私はカップ付きキャミにトマT、短パンという軽装で挑み、祭り後はTシャツを脱いで黒のブラウスを羽織り、スカートを履いてから短パンを脱ぐという手順でなんとか対応。
下着は濡れたままだったが、暑さで意外とすぐ乾いた。
清潔な服に着替えておかないと、帰りのバスで乗車拒否される可能性もあるので要注意だ。
帰りはまた空き地に集合するが、公式バス以外も多数停まっていて何がどれかわからない。
人々が一斉に群がり、すぐ満席になるので、勘を頼りにソロッラ駅行きの公式バスを探すしかなかった。

ようやく発見して乗り込むと、チケット確認もほぼ形だけで、すでに運営はぐだぐだ。

座席の背もたれにはビニールが巻かれていたが、座面はむき出しだったので、やはり下半身もきれいな服でないと厳しい。

帰りもおよそ40分でバスはソロッラ駅に到着。
すでに16時を過ぎていた。
ヒナコさんは声が枯れ果て、私もコウダイさんもボロボロ。
髪にはトマトがこびりつき、全身からは強烈なトマト臭が漂う。
一刻も早くシャワーを浴びたい…!
駅で2人と別れ、足取りは重かったけれど、途中で夕食用の食材を買ってなんとか宿へ戻った。
ベッドに飛び込みたい気持ちを抑え、まずはシャワールームで服を洗う。
何度すすいでも臭いは完全には落ちず、かろうじて“うっすら残る程度”までになったので、とりあえず捨てずに済ませることに。
正直、洗うのが面倒な人は、下着も服も全部「捨てる前提」で挑んだ方が気楽かもしれない。

少し仮眠してから、夜はメロンとフエット(生サラミ)、ワインのシンプルな夕食。
疲れた体に染み渡り、最高のご褒美になった。
同宿の日本人女性によると、彼女たちは電車で行く予定だったが運休で振替バスに乗り大混雑だったという。
別の旅行者は無料バスに乗れず、タクシー相乗りで現地入りしたらしい。
初めてなら高くても往復バス付きチケットが安心だと痛感した。
さらに夜には、パスポートとiPhoneを盗まれた日本人旅行者をサポートすることになり、深夜1時過ぎまで対応に追われた。
楽しかったけれど、とにかくカオスすぎるトマティーナ。
個人的には「一度行けば十分」と思うほど過酷だった。
ヤバすぎる世界の奇祭、あなたも参加してみたいと思いますか?(゚∀゚)
8月27日:使ったお金
トマト祭りのチケットには、往復バス・パエリア&サングリア・ロッカーをオプションで付けたので、かなり高額になった。
・朝食代(朝マックセット):3.31ユーロ(=571円)
・サングリア:3ユーロ(=518円)
・トマト祭りチケット代:90ユーロ(=14,899円)
・夕食代(フエット等):7.3ユーロ(=1,261円)
合計:17,249円