今朝は少し早起きして、ニズワ名物のヤギ市場へ。
毎週金曜の朝になると、街の中心は家畜の鳴き声と男たちの声でざわつき始める。
売り手たちはヤギを引いて輪になって歩き、買い手と短い言葉を交わしては、さっと値段を決めていく。
かつて砂漠を渡って暮らしていたベドウィンたちの面影が、ふと重なって見えた。
午後はニズワ要塞へ。
土の壁に囲まれた内部には、敵の侵入を防ぐための仕掛けがいくつも残っていた。
熱したデーツの油を落とす穴や、足元にぽっかりと空いた落とし穴。
どれも実にシンプルで、実用的だけど、ちょっとだけ怖い。
今日の旅は、命と向き合う朝の市場と、知恵が詰まった砦を巡る一日。
命がせり落とされる朝|ニズワ名物ヤギ市場へ
朝7時過ぎ、宿で出会ったCoraと一緒にNizwa sheep marketへ。

干上がった河川敷には、家畜を積んで帰るための車がずらりと並んでいた。

市場に近づくにつれ、伝統衣装「ディシュダーシャ」に身を包んだ男たちが目立ち始め、可愛らしい子どもたちの姿もちらほら。

駐車場の一角では、うさぎやインコ、様々な鳥たちが並ぶ小さな市も開かれていた。




やがて耳に飛び込んできたのは、「メ〜メ〜」という切ない鳴き声。
見ると、トラックの荷台に乗せられたヤギたちが、不安そうに鳴いていた。
ああ、買われたんだな…と思うと、胸がぎゅっとなる。

ヤギの競りは、毎週金曜の朝6〜9時頃に開催される。


サークル状の広場で、売り手がヤギを引いてぐるぐると歩き、買い手たちに売り込みをかけていく。

買い手は毛並みや健康状態をじっくりと観察し、小さなヤギは小脇に抱えて歩くことも。


一言、二言交わすだけで、値段が決まり、ヤギはすぐにトラックへ。
交渉のスピード感は驚くほど早く、静かで、でも命を扱っているという重みがじんわりと伝わってきた。


8時半頃には牛の競りも始まった。

そのすぐそばでは、買われた羊たちがトラックの荷台で「メ〜メ〜」と悲しげに鳴いている。
その鳴き声に合わせて、頭の中には自然と「ドナドナ」が流れていた。
普段はスーパーで切り身の肉しか見ていないからこそ、生きた動物の競りを目の前で見るという体験は、思っていた以上に心に残る。
「いただきます」って、もっと深い言葉なんだな…としみじみ思った。
市場の余韻とともに歩く|ニズワ旧市街ぶらり散策
ヤギ市場をあとにして、旧市街のスークへ。

魚スークの前には野菜の市が立ち、新鮮なかぼちゃや人参等が並んでいる。


中にはなんと、蜂の巣まで売られていた。

魚市場では大きな魚のブロック売り、肉スークでは鳥の肉を店員が次々とさばいていく。

その手際の良さに、しばし見入ってしまった。

旧市街の中心では、素焼きの壺が所狭しと並べられ、街角にはソフトクリームの自販機が設置されていて、地元の人たちが完成の様子を楽しそうに覗き込んでいたのが微笑ましかった。


そして通り沿いには、ハンジャル(オマーンの短剣)やライフルなど、武器の販売も。

伝統衣装「ディシュダーシャ」とハンジャルの組み合わせがかっこよくて、思わず写真を撮らせてもらった。


みんな観光客にも親切で、「写真撮ってもいい?」と聞くと快く応じてくれた。
日が高くなるにつれて暑さが増し、宿に戻ってクールダウン。
フロント近くでブログを書いていると、ちょうど昼前に日本人女性のリサさんがチェックインしてきた。
なんと、彼女は味噌を持っていて、昼食に味噌汁をお裾分けしてくれた。

日本を出て以来、日本食とはすっかり縁遠かったから、久しぶりの味に心がほっと落ち着く。
敵を寄せつけない工夫の数々|ニズワ要塞の知恵に驚く
夕方、暑さが和らぎはじめた頃、再び旧市街へ向かう。
昨日うっかり中に入ってしまったニズワ要塞、今日はきちんと正面から入場料を払って、堂々と見学する。

ニズワ要塞は、17世紀にイマーム・スルターン・ビン・サイフ・アル・ヤアールバによって築かれた、内陸オマーンの防衛と統治の要だった場所。
円形の巨大な塔はオマーン最大級で、重厚な土の壁と複雑な構造が、当時の戦略と威厳を今もそのままに伝えてくる。

中に入ると、まず目に入るのは深い井戸。
水を蓄えながら籠城できるように設計された、実用的な工夫だ。
敵の侵入を防ぐための仕掛けも至るところに残っている。

上から熱したデーツの油を落とす穴、足元にはガラスが嵌められた落とし穴の跡。

どれも見た目は素朴だけれど、容赦のない仕掛けにゾッとする。

塔の上まで登ると、そこからはニズワの街並みを一望。

ちょうど日が沈みかけていて、朱に染まる家並みがとても美しかった。

中庭では、伝統音楽の演奏と踊りのパフォーマンスが始まっていた。

3本の笛が高く澄んだ音を奏で、太鼓のリズムがそれに重なる。

エキゾチックなリズムに合わせて、伝統衣装の男たちが輪になって踊る姿は、どこか神聖で、オマーンの歴史の空気が静かに流れているようだった。

要塞の中は迷路のように入り組んでいて、小さな部屋がいくつも点在している。


そんな一角では、ライフルを持った民族衣装の男性がドローンで撮影されていた。
きっと何かの映像作品だろう。
現代と伝統が交差する、不思議な光景だった。
宿で出会った旅人と|ローカルレストランでビリヤニを囲む夜
夜は、同じ宿に泊まっているCoraとリサさんと3人で夕食へ。

向かったのは、地元の人しかいないようなディープなローカル店「Al Zuhly Restaurant」。

オーダーしたのは、チキンビリヤニ、フムス、鶏肉のグリルにアラビアパン。
ビリヤニはスパイスで炊き込まれた香り高いごはん料理で、見た目以上にボリュームがある。
フムスはひよこ豆のペーストで、パンにつけて食べるとクセになる味。
3人でシェアしながら、いろんな味を楽しめたのが嬉しい。
しかも、これで3人分3.6リアル(=1,318円)という破格っぷり。
Coraがいたので、会話は自然と英語になったけれど、リサさんはこの旅で初めて出会った個人旅行中の日本人。
ウズベキスタンでは団体ツアーの人しか見かけなかったから、こうしてオマーンで同じように旅してる日本人と出会えたことが、なんだか心強かった。
円安のいま、個人旅をしている日本人は少ないかもしれないけれど、「私だけじゃない」と思えるだけで、ちょっと安心する。
食事中、明日の予定の話になって「3人でバハラ要塞に行ってみる?」という流れに。
試しにオマーンの配車アプリ「OTAXi」で検索してみると、ニズワからバハラまでは片道8.5リアル(=3,112円)。
うーん、高い…。
宿に戻ってオーナーに相談したら、まさかの「ヒッチハイクしたら?」との提案。
( ゚Д゚)えっ…と思ったけど、たしかにオマーンの人たちは親切だし、車も多いし、なくはない…?
私はネパールのヒマラヤで一度ヒッチハイクをしたことがあるけど、Coraもリサさんも未経験らしく、やや引き気味。(笑)
明日どうするかは、朝になってから考えることにして、この日は就寝。
4月18日:使ったお金
今日は朝も昼も、昨日スーパーで買っておいた食材で簡単に済ませたので、出費はかなり控えめ。
ニズワ要塞の入場料と、夕食代だけ。
・ニズワフォート入場料:5リアル(=1,850円)
・夕食代(ビリヤニ等):1.6リアル(=592円)
合計:2,442円