【36】危険レベル3のシナイ半島で遭遇した狂気のバス事件 無賃乗車と紫スプレーの女(2025.5.13)

エジプト

さよなら、ダハブ。

“沈没生活”から一転、今日は旅始まって以来の最もスリリングな1日となった。

向かう先はカイロ。

ミニバスは、外務省が「危険レベル3」とするシナイ半島を突っ切り、スエズ運河の下をくぐるルート。

だが、本当の危険は、車内に潜んでいた( ゚Д゚)

トイレ休憩地から突如現れた、無賃乗車&挙動不審のカナダ人女性。

怒って降車する乗客たち、車内に広がる謎の紫のスプレー、Fワードの嵐…。

パニックと恐怖の中、私の白い服にも降りかかる災難。

そしてついに、ドライバーが下した驚きの決断とは――。

ダハブからカイロへ|ミニバスでシナイ半島を横断する

Go Bus待合所

ダハブからカイロ行きのバスは、各社が複数運行していて、大型バスからミニバスまで選択肢は多い。

夜行便が一般的だけれど、危険レベル3のシナイ半島を夜に通過するのは不安だったので、昼便を選択。

評判の良かったWe BusやEveryday Busにも惹かれたが、やはり安心の大手Go Busを選び、10時発の便を予約。

待合所にいた子猫

待合所では子猫がうろうろしていて、のどかなひととき。

まさかこの後、とんでもないことになるとは思いもよらず、猫と戯れていた。

Go Busのミニバン

出発の時間になると、ミニバンが到着。

運転手にバックパックを渡すとチップを要求されたので10ポンド(=28円)を渡す。

バス車内

席は指定されていて、私はドアに一番近い席を確保していた。

走行中の車内
車窓からの風景

バスはダハブを出発し、シナイ山がある地域をかすめながら、西へと向かってひたすら砂漠を走る。

私はそのほとんどの時間を眠っていたけれど、目を覚ますと、車窓の外にはどこまでも続く乾いた砂と岩の風景が広がっていた。

建物も信号もほとんどない一本道。

途中にいくつか検問はあったものの、大半はただの荒野だった。

バスに現れた異常な乗客|紫スプレーと恐怖の車内

トイレ休憩

トイレ休憩のために停車した売店は、小さな建物がぽつんとあるだけの簡素な場所。

売店

私はパンとヨーグルトジュースを買って、立ったまま軽く昼食。

そんな穏やかな時間が、急に不穏な空気に変わる。

ふと視界に入ったのは、小さなバックパックを背負い、バスの窓を次々に覗き込んでいるひとりのカナダ人女性。

目はうつろで、動きもどこかおかしい。

薬か、精神的な問題か……とにかく、近づいてはいけないと直感した。

ここはシナイ半島のど真ん中。

周囲にはホテルもレストランもなく、砂と岩と道路しかない。

そんな何もない空間に、異質な存在がふらふらと歩いていること自体が、もうすでに怖かった。

そして数分後――。

バスが出発しようとした瞬間、数人のエジプト人が運転手の前に立ちはだかり、「彼女を乗せろ」と詰め寄っていた。

ドライバーは最初こそ拒否していたものの、押し切られる形でドアを開けてしまった。

チケットもないまま、例のカナダ人女性がバスに乗り込んでくる。

すると、乗っていたエジプト人女性3人が怒って荷物を持ち、降りていってしまった。

私も正直、降りたかった。

けれど、この場所にひとり取り残されるほうがもっと怖い。

私はそのままバスに残ることにした。

こうして、狂気の女との恐怖のシナイ横断ドライブが、静かに幕を開けた。

車窓からの景色

その女はバスのいちばん後ろに座った。

他の乗客――エジプト人男性2人、別のカナダ人女性、そして私の4人は、自然と前方にかたまり、距離を取る。

彼女はバックパックを背負ったまま、横向きで座り、ずっとぶつぶつと独り言を言いながら、謎のスプレーを連発していた。

エジプト人のアハメッドが注意すると、彼女は逆ギレしてFワードの嵐。

これはもう、関わらないほうがいいと判断し、車内は重い沈黙に包まれた。

ただ、そのスプレーは明らかにおかしかった。

勢いよく噴射された霧が私のほうまで届き、ふと白いブラウスを見ると、紫の染みがいくつも……。

紫のスプレーが服に付着

「なにこれ……?」と頭が真っ白になった。

アハメッドに助けを求めると、彼は私のブラウスを見て一瞬で表情を変えた。

怒りと呆れが混じった、忘れられない顔。

すぐに運転手に報告し、次の検問で彼女の異常行動を訴えた。

麻薬探知犬も車内を嗅ぎまわったが、何事もなかったかのように通過。

あのスプレー、変な匂いがしたし、ヤバいやつだったと思う。

彼女の手足も紫に染まっていて、いったい車内で何をしていたのか想像もできなかった。

それでも、彼女はスエズ運河の検問を通過してしまった。

その後、売店で2回目のトイレ休憩。

私は手に付着した液体を必死に石鹸で洗い流した。

ようやく落ちたけれど、肌にまで染み込むような成分で、やっぱり普通のスプレーじゃない。

CBDかTHCか、あるいはそれ系の合成薬品かもしれない。

お気に入りの白ブラウスは、もう処分するしかなさそう。

トイレから出ると、運転手が私に目配せしてきた。

その近くにいたモハメッドが、まともなカナダ人女性と私を呼び寄せ、店の裏へと誘導。

そこで私は察した。

――あ、置き去りにする気なんだ。

裏ではもう一人のエジプト人が待っていて、私たちは急いでミニバンに飛び乗った。

バスはクレイジー女の前を大きく回り込むようにして走り出す。

彼女は外でタバコを吸っていたが、バスが出発したことに気づいていない様子。

でも、もし気づいたら…と想像するとゾッとした。

彼女の荷物が一部まだバスに残っていたが、誰も気にする余裕はなかった。

なぜ彼女はずっとバックパックを背負ったままだったのか。

その理由が、ようやくわかった気がした。

彼女はおそらく、今までも何度も置き去りにされてきたんだろう。

バッグが異様に小さいのも、そうして繰り返し失ってきたからかもしれない。

そんなことを考えながら、バスは無言のままカイロを目指して走り続けた。

Go Bus (Tahrir) Boarding Station

18時過ぎ、バスはカイロ・タヒリールのバスターミナルに到着。

小さなポーチと買い物袋

ドライバーと彼女が座っていた席を見ると、そこには小さなポーチと買い物袋。

彼女のポーチに入っていた謎の容器

ポーチの中からは、乾燥した植物片の入った容器が出てきた。

海外のディスペンサリーで見かけるような、明らかにヤバそうな容器。

ドライバーは呆れながら「会社に報告する」と言っていた。

ずっと自分の荷物には気を配っていたけれど、もし彼女の荷物が混じっていて、検問であらぬ疑いをかけられていたら……と思うと、ゾッとした。

無事にカイロまで辿り着けて、本当に良かった。

レトロなエレベーターにびっくり|カイロの宿に到着

Heritage Hostel cairo

今夜の宿は、エジプト考古学博物館の目の前にある「Heritage Hostel Cairo」。

レトロなエレベーター

建物全体が古くて、エレベーターも今にも止まりそうなほどレトロ。

でも、周囲を囲むらせん階段と相まって、どこか味がある。

レトロなエレベーター
ドアは自分で開閉する

エレベーターは自動じゃなくて、ドアの開け閉めは手動。

レトロ感が際立つけれど、慣れないとちょっとドキドキする。

2階に宿があるので、階段でもアクセスできる。

フロント

今回は、朝食付きの女性専用ドミトリーに1泊。

料金は570ポンド(=1,651円)。

カイロにはもっと安い宿もあるけれど、あまりにボロボロなのは避けたい。

でも個室だと高すぎる。

そのちょうど中間くらいで、この宿は妥協点としてちょうどよかった。

女子ドミ

部屋は4人部屋できれい。

ベッドもしっかりしていて、マットレスも寝心地がいい。

私のベッド
共同シャワールーム

ただ、シャワールーム兼トイレが2つしかないので、混み合う時間帯は少し不便。

“炭水化物モンスター”を堪能|カイロ名物コシャリの名店へ

カイロの街並み

宿の周辺には、くすんだ洋風の建物が並び、服屋、香水屋、屋台、電器店がひしめき合う。

道には人と車、そしてクラクションがあふれていて、ホコリっぽくてうるさい。

でも、妙にエネルギーがあって、まさに“カイロらしい”雑多な雰囲気だった。

Koshary Abou Tarek

そんな喧騒の中で向かったのは、カイロ名物コシャリの名店「Abou Tarek」。

調理パフォーマンス

店内では、職人が手際よく盛りつける調理パフォーマンスも見どころのひとつ。

店内の様子
ソースなしのコシャリ

皿の上には、米、マカロニ、スパゲッティ、レンズ豆がどっさり盛られている。

最初はトマトソースをかける前の状態で提供され、見た目は“炭水化物の標本”のよう。

ソースをかけたコシャリ

そこに、ヒヨコ豆とカリカリの揚げ玉ねぎ、そして甘酸っぱいトマトソースをたっぷりかけて、豪快に混ぜる。

見た目はカオスだけど、食べてみると意外なほどクセになる味。

まさに“炭水化物モンスター”。

ただの移動日のはずが、予想外のトラブルでぐったり。

この日は、コシャリを食べ終わったあと、あっという間に眠りに落ちた。

5月13日:使ったお金

バス代は事前に支払っていたため、この日は宿代や食費、チップなどの出費のみ。

・宿スタッフチップ:100ポンド(=289円)
・水:10ポンド(=28円)
・バス荷物チップ:10ポンド(=28円)
・軽食代(パン等):70ポンド(=202円)
・宿代(1泊分):570ポンド(=1,651円)
・夕食代(コシャリ等):85ポンド(=246円)

合計:2,444円