早朝4時、まだ真っ暗なうちに目をこすりながら出発したアブシンベルツアー。
灼熱を避けるため、片道3時間半以上かけて向かい、滞在はたったの1時間半という弾丸スケジュール。
それでも、朝焼けに染まる神殿の姿は、その短さを忘れさせるほどの圧巻だった。
そして夕方には、同じツアーで出会った日本人女性とフェルッカをチャーターしてナイル川へ。
風が強く、船は何度も大きく傾き、まるで転覆寸前。
手で縁をつかみ、足でふんばるスリル満点のセーリングに、思わず笑ってしまうほどだった。
今日は、エジプトの雄大な歴史と自然の中で、身体も心も大きく揺れた1日の記録。
アブシンベル神殿へ|早朝4時発の弾丸ツアー
早朝3時、眠い目をこすりながらアブシンベルツアーのために起床。
ツアーは事前に宿で申し込んでおいたもので、料金は1,100ポンド(=3,197円)。
往復のミニバン代のみが含まれていて、ガイドなし・入場料別というシンプルな内容だ。
アブシンベルは朝9時を過ぎると一気に気温が上がり、まさに灼熱地獄。
加えて観光客も殺到して混雑してしまう。
だからこそ、このツアーは真っ暗なうちに出発する「早朝4時発」の弾丸スケジュールとなっている。

深夜3時半でも、宿の近くにはレストランや屋台がぽつぽつと営業しており、朝食には困らなかった。
ファラフェルを30ポンド(=86円)で購入し、移動中のバス内で食べることに。

集合場所は宿から徒歩3分ほどのB.TECH – Aswan前。
4時前に着くと、すでにミニバンが待機していて、すぐに乗り込むことができた。
他の乗客を何か所かでピックアップしながら、アブシンベル神殿を目指してひたすら南へ。
片道3時間半以上、ミニバンは砂漠地帯を延々と走る。
車内は全員ぐったりと眠りに落ちていて、無理もないと思いながら自分も目を閉じた。
7時半ごろ、ようやくミニバンがアブシンベルの駐車場に到着。
周囲には同じようなツアー車両がずらりと並んでいたので、自分の車の外観を忘れないように写真を撮っておいた。
事前に宿のムスタファからは「現地での滞在時間は2時間ある」と聞いていたけれど、ドライバーに確認すると「1時間半」とのこと。
急いでトイレを済ませ、チケット売り場へ。

入場料は822ポンド(=2,496円)でカード払い。
エジプトの遺跡は入場料が高めで、外国人観光客とエジプト人では10倍以上の差があることも。
観光立国の収入源だとわかっていても、バックパッカーにとってはなかなかの打撃だ。
同じツアーに参加していた日本人女性のラーヤさんと意気投合し、写真を撮り合いながら一緒に神殿を見て回ることに。

ナセル湖のほとりにどっしりと構えるアブシンベル大神殿。
これは新王国時代・第19王朝のファラオ、ラムセス2世によって建てられた巨大な岩窟神殿で、高さ20メートルのラムセス像が4体も並ぶ姿は、まさに圧倒的。
言葉を失うスケール感だった。

像の足元をよく見ると、小さく彫られた王妃ネフェルタリや子どもたちの姿がある。
自分はドーンと巨大に彫っておきながら、家族はミニチュア扱い。
なんとも“らしい”というか、自己愛があふれていて、ちょっと笑ってしまった。

神殿の入口には、ラムセス2世が戦った敵国の捕虜たちの姿も。

側面右にはシリア人捕虜、左にはヌビア人捕虜、そしてその上には上下エジプト統一を示すレリーフが描かれている。
驚いたのは、顔立ちや髪型などが民族ごとに丁寧に描き分けられていたこと。
古代エジプトの人々が、敵対する民族に対しても細かく観察し、違いをしっかりと彫り込んでいたことに感心した。

入口では、現地の男性が「アンク」を手渡してきた。
アンクとは、古代エジプトで“生命”や“不死”を象徴する聖なるシンボル。
神々がファラオに命を授ける場面によく登場するあの形だ。
……が、ここでは完全に「記念撮影用グッズ」。
「これ持って!」と笑顔で渡され、ポーズを決めて撮ったあとに「チップ?」と、にこやかに請求される流れ。
神聖なのか商売なのかよくわからない感じだけど、まあ、エジプトあるある。

内部の通路には、左右すべてラムセス2世の立像。
顔も体も全部同じで、自己愛の極みとしか言いようがない。

壁面には、戦車に乗って敵をなぎ倒すラムセスの姿がダイナミックに描かれており、まるで古代のプロパガンダのような勢いだ。

他にも、ホルス神に供物を捧げるシーンなど、どれも「神に近しい存在」としての自分を強調している構図が多く、どこを見ても“俺すごいだろ?”というオーラが満ちている。

最奥の至聖所には、神々と並んで座るラムセス像が彫られており、左からプタハ、アメン・ラー、神格化されたラムセス2世、ラー・ホルアクティが並ぶ。
「俺はもう神だ」と言わんばかりの演出で、清々しいほどの自己演出に思わず笑ってしまった。
とはいえ、荘厳な空間の中に静かに佇むその像は、時を超えて人の心を打つものがあった。

大神殿の隣に建つのが、小神殿。
こちらはラムセス2世が最愛の妃ネフェルタリのために建てたもので、女神ハトホルとネフェルタリを祀っている。
外壁にはラムセス像が6体並び、そのうち2体はネフェルタリ像。

王妃の像がファラオと同じ大きさで彫られているのは非常に珍しく、それだけ彼女が特別な存在だったことが伝わってくる。

内部に入ると、柱の上部には牛の耳を持つ女神ハトホルの顔が彫られていて、優しい表情が空間に母性的な空気を漂わせていた。

征服と自己顕示の象徴だった大神殿に対し、小神殿は愛と包容力の象徴。
対照的な二つの神殿が並ぶ姿は、美しさと力強さが共存する不思議な風景だった。

神殿の前に広がるナセル湖は、アスワン・ハイダムの建設によって生まれた巨大な人造湖。
もともと神殿は水没の危機にあったが、ユネスコの支援によって、巨大なブロックに切り分けられ、高台にまるごと移築されたという。
湖にはナイルワニも生息しているらしいが、残念ながらその姿を見ることはできなかった。

帰路も行きと同じく、砂漠のど真ん中をまっすぐ貫く道をひたすら走る。

途中のトイレ休憩で車を降りたとき、何もない広大な砂漠の中に、一本の道だけが真っすぐ続いている光景が広がっていて、思わず立ち尽くしてしまった。
シンプルなのに心を奪われる――そんな風景だった。
すれ違いの末にやっと予約完了|クルーズ申込みの顛末
アブシンベル神殿のツアーを終えたあと、ナイル川クルーズの申し込みとデポジットの支払いのため、Montyのアパートへ向かった。
事前に待ち合わせていたのに、彼は現れず…。
一度宿に戻ってからようやく連絡がついたけれど、再びアパートに行く気にはなれず、今度はこちらの宿まで来てもらうことに。
ようやく申込書にサインし、500ポンド(=1,445円)のデポジットを支払い、これで正式にクルーズの予約が完了。
ほっとひと安心。

昼ごはんは、宿のすぐ隣にあるジューススタンドで買ったフルーツとスムージー、それに宿のスタッフからもらったサトウキビジュースを部屋でのんびり味わった。
風に煽られ転覆寸前!?ナイル川フェルッカ3時間航海
夕方、ラーヤさんと待ち合わせして、ナイル川のフェルッカへ。

3時間貸切で900ポンド。
ちょっと高めではあったけど、2人でシェアすれば一人あたりは手頃だし、昨日よりも遠くまで行ってもらえるかもしれない。

ただ、この日は昨日とは打って変わって風が強く、フェルッカは何度も大きく傾いた。
手で縁をつかみ、足で踏ん張らないとナイル川に放り出されそうになるほど。
水面すれすれに傾く船に「転覆するんじゃ…」とヒヤヒヤしながらも、スリル満点の船旅に思わず笑いがこぼれた。

出発は16時半。
この日は特に気温が高く、乗ってすぐの1時間はまさに灼熱地獄。
フェルッカはまず、ヌビア村近くの砂丘の前をゆっくり進んでいったのだけど、夕日に照らされたその砂丘は、見ているだけで暑苦しく感じるほどだった。
あまりの暑さに、ラーヤさんをこの時間に誘ってしまったことを、ちょっと申し訳なく思った。
でも、昨日1時間だけ乗ったときは近場をぐるっと回っただけで少し物足りなかったから、今日は3時間チャーターして、できるだけ遠くまで行ってみたかった。
…けれど、風が強すぎて操縦は難航。
懸命にオールを漕ぐヌビア人の船頭さんも、風に逆らえず、結局はエレファンティネ島とキッチナー島をぐるりと回るコースに落ち着いた。
思っていたほど遠くまでは行けなかったけど、風まかせのフェルッカだからこそ、そういう日もある。
仕方ない。

夕日を眺めるため、船はヌビア村近くで停泊。
アスワンの港からは目と鼻の先だけれど――たぶん今日は、ここで夕日を見る運命だったのだ。
インシャアッラー(神が望むなら)。

オレンジ色に染まったナイル川、その向こうに沈んでいく砂漠の夕日は、息をのむほど神秘的。
そして何より、ラーヤさんとの会話が楽しくて、3時間の船旅もあっという間だった。
最後は船頭にチップをしつこく要求されて辟易しつつも、怖くて逆らえず、結局一人あたり総額480ポンド(=1,387円)を支払うことに。
チップが少ないと怒り出すんじゃないかとヒヤヒヤしながら、支払ったあとはそそくさと船を後にした。
イタリアンでひと息、札束ときゅうりと優しい宿の夜
フェルッカを降りたあと、ラーヤさんとはここでお別れ。
私はその足で、近くのイタリアンレストラン「OBELISK」へ向かい、夕食をとることにした。

さすがにエジプト料理にも飽きてきたので、今日はイタリアン気分。
トマトとチーズのカプレーゼを注文した。

チーズが多すぎて最後はちょっと飽きたけど、それでも久々のイタリアンは美味しかった。

明日はついにナイル川クルーズに乗船。
乗船時に残金9,780ポンド(=28,355円)を現金で支払うことになっていたので、ATMで現金を引き出すと、手元には札束がどっさり。
思わず「お金持ちになった気分」。

夜、宿のスタッフからきゅうりをもらったので、翌朝の朝食用にとっておくことに。
この「City Center Hostel」は、オーナーのムスタファはもちろん、スタッフ全員がとても親切。
きゅうりやトマト、サトウキビジュースなど、顔を合わせるたびにいろいろなものを分けてくれる。
水を買いに行こうとすれば一緒に売店まで案内してくれて、しかもお金まで払おうとするので、そこは丁重にお断りして自分で支払った(笑)
さらに洗濯機も無料で貸してくれて、干すのを忘れていたら、代わりに物干し竿に干しておいてくれるという気遣いまで。
バックパッカーにとって、洗濯機無料は地味にありがたいポイント。
心温まるおもてなしをしてくれる、おすすめの宿です。
予約は各ホテル予約サイトでもできるけれど、直接予約したい場合は、オーナーのメール:mostafa40y@gmail.com へどうぞ。
5月16日:使ったお金
アブシンベルのツアー代(往復ミニバン)は前日のうちに支払い済。
今日はナイル川クルーズのデポジットを支払い、フェルッカは3時間チャーターしてラーヤさんとシェア。
チップを含めるとちょっと高くついたけど、それも含めて思い出。
食費は控えめだったものの、日中のジュース代や夕食のイタリアン、トイレのチップなど、細々とした出費が重なった1日だった。
・朝食代(ファラフェル):30ポンド(=86円)
・トイレチップ:10ポンド(=28円)
・アブシンベル入場料:822ポンド(=2,496円)
・ドライバーチップ:50ポンド(=144円)
・クルーズデポジット:500ポンド(=1,445円)
・ジュース:100ポンド(=289円)
・フェルッカ(3時間※二人でシェア):480ポンド(=1,387円)
・夕食代(カプレーゼ等):250ポンド(=722円)
・水:10ポンド(=28円)
合計:6,625円