灼熱の太陽の下、今日はルクソールを丸一日観光。
激安ナイルクルーズとは思えない贅沢な最終日で、西岸と東岸の遺跡を一気にまわる超ハードスケジュールが用意されていた。
とはいえ、この日の最高気温はなんと44度。
日陰のない遺跡を一日中歩き回るには、さすがに体力がもたない。
そこで私は、半日だけツアーに参加して、西岸のハトシェプスト女王葬祭殿、王家の谷、メムノンの巨像を効率よくまわったあと、東側への観光は行かず、ツアーを途中離脱することに。
気温44度のなかでの遺跡巡りは想像以上に過酷だったけど、念願のツタンカーメンの墓に入れた感動は、すべての暑さを吹き飛ばしてくれた。
その後は荷物を持って宿にチェックインし、少し仮眠をとって体力を回復。
夜は自力でカルナック神殿の音と光のショーへ。
朝から晩まで灼熱の遺跡に挑み続けた、ルクソール観光づくしの1日がこうして始まった。
ハトシェプスト女王葬祭殿へ|炎天下の遺跡ツアー開始

朝、クルーズ船のデッキに出ると、王家の谷の上空には無数の気球がふわふわと浮かんでいた。
少し霞んでいて鮮明には見えなかったけど、ルクソールの気球ツアーは人気のアトラクション。
クルーズ船のプランに含まれていることも多い。
朝食を済ませてチェックアウト。
バックパックはフロント近くの専用スペースに置かせてもらえるので、そこに預けておく。
8時15分、ジリジリと照りつける太陽の下、ツアーがスタートした。

このツアーでは、西岸と東岸の遺跡をまとめて巡る欲張りプランが用意されていたけれど、炎天下を一日中歩き続けるのはさすがに無理。
そこで、アクセスが難しい西岸だけを効率よく巡って、東岸は自分で行くことに決めていた。
午前中にハトシェプスト女王葬祭殿、王家の谷、メムノンの巨像をまわり、午後はツアーを離脱する予定だ。

最初の目的地は、断崖に抱かれるように建つハトシェプスト女王葬祭殿。
入場料はツアー代に含まれていないため、各自でチケット(440ポンド=1,331円)をカードで購入。

そのすぐそばにあるチケット売り場で、タフタフ(シャトルバス)のチケットも購入。

歩けない距離ではないけれど、わずかな体力も温存したいこの日は、迷わず全員がタフタフに乗車。
チケットは往復で20ポンド(=57円)と激安。


幾何学的に整った列柱と、自然の岩山が一体となる独特の構造。
正面から見た3層構造の神殿は、女王の威厳がそのまま形になったような美しさだった。

内部には色鮮やかな壁画がいまも残り、ホルス神への捧げ物の場面からは、3500年前の儀式の気配が伝わってくる。

天井には星空の模様が描かれ、思わず見入ってしまう幻想的な空間。

列柱には、女王の顔立ちを模したオシリス神像が並び、神の姿に自らを重ねた彼女の意志が刻まれている。
日陰のほとんどないこの場所で、すでに体力はかなり消耗。
でも次はついに王家の谷──と思いきや、連れて行かれたのはまさかの土産屋だった。

アラバスターという光を通す白い石を使って、壺や神像、レリーフなどを制作・販売しているルクソールの工房。
ノミで石を削る職人の手つきはまるで博物館の実演コーナーのようで、ちょっとした見どころだった。

照りつける太陽のもと遺跡を歩き続ける中、涼しい土産屋での休憩は思いがけずありがたかった。
王家の谷をめぐる|ツタンカーメンの墓と歴代ファラオの眠る場所

次に向かったのは、岩山に囲まれた静かな谷──王家の谷。
かつて新王国時代、ファラオたちはこの地にこぞって自らの墓を築いた。
一見、岩山の中に開いたただの入り口にしか見えないが、その奥には、想像を超えるほど精緻な地下空間が広がっている。
王家の谷の入場券では、好きな墓を3つまで見学できる仕組み。
私はこれに加えて、別料金のツタンカーメンの墓のチケットも購入。
他のツアーメンバーは誰も追加で買ってなくて、え、ツタンカーメン推しって私だけ…?ってちょっとさみしかった。

ここでも入口から谷の中心部までは、タフタフ(シャトルバス)で移動。
灼熱の谷を歩くのは厳しいので、ここでも体力温存。

最初に訪れたのは、ラムセス4世の墓(KV2)。
通路は広くてまっすぐ、壁一面には太陽神ラーや冥界の神々が鮮やかに描かれ、まるで古代の神話の中を歩いているようだった。
その美しさと保存状態の良さに、思わず足を止めて見入ってしまう。

最奥の部屋には、巨大な石棺が静かに置かれており、ひんやりとした空間にファラオの気配が今も漂っていた。

次に向かったのは、この谷の中でも特別な存在──ツタンカーメンの墓(KV62)。
他の墓に比べると規模は小さいけれど、ここには“世界を驚かせた王”の伝説が詰まっている。
入口では特別チケットが確認され、いざ中へ。

急な階段を下ると、目の前に現れるのは、少年王のミイラが安置された小さな部屋。

ガラスケースに収められたミイラは、今もここに静かに眠り続けている。
かつて黄金のマスクを被っていたその姿を想像すると、ぞくっとするような感動があった。

部屋の奥には第一棺(最外棺)も置かれており、ここだけが壁画で装飾された空間になっている。

北側には、後継者アイが「開口の儀式」でツタンカーメンに命を吹き込む場面が描かれ、死後の再生を象徴している。

東側の壁には、『死者の書』に登場する12体のヒヒ(猿)のレリーフ。
太陽神の船とともに冥界を旅する存在で、夜明けと再生の意味を持つ。
黄色い壁に等間隔に並んだその姿は、神秘的でありながらどこかユーモラスでもあった。

入口付近には、ハワード・カーターが棺を開けた瞬間の白黒写真も展示されていた。
かつて世界中を魅了した“王の眠る場所”に、自分の足で立っているという事実が、じわじわと心に染みてくる。
小さな墓だったけれど、その重みは他のどの墓よりも大きく感じた。

続いて訪れたのは、ラムセス3世の墓(KV11)。
通路が長く、奥へ進むごとにレリーフの密度が増していく。
壁一面にびっしりと描かれた神々と王の姿は、まるで古代の絵本の中に迷い込んだかのよう。

色彩は驚くほど鮮やかに残っていて、まるで時が止まっているかのようだった。
今回訪れた中でも、装飾の多さと美しさが特に印象的だった。

最後に訪れたのは、ラムセス2世の息子・メレンプタハ王の墓(KV8)。
王家の谷の中でも規模が大きく、傾斜のある長い通路と階段をいくつも抜け、どんどん地下へと潜っていく。
この“地中に沈んでいく感覚”が、まるで冒険のようでわくわくした。

この墓の最大の見どころは、主室に残る巨大な花崗岩製の石棺。
その存在感は圧倒的で、表面には神々の姿が彫られていた。
一部は破損し、白い線で補修されているが、それもまた歴史の一部として目に焼きついた。
観光客は少なく、静かな空間の中に古代の時間が積もっているような、そんな余韻が残る場所だった。

散策を終えて、王家の谷の中心にあるカフェでツアーメンバーと集合。
それにしても、日陰と呼べるのは墓の中かこのカフェくらいで、外に出た瞬間、全身がフライパンに乗せられた肉みたいになる。
気温44度。
もはやこれは観光ではなく、修行である。
持ってきた1.5リットルの水は、いつのまにかぬるいお湯になっていた。
この日学んだ教訓は、「ぬるい水では戦えない」。
ちょっと高くても、観光地ごとに冷たい水を買い足すほうが、結局は命を守る出費かもしれない(‘A`)
メムノンの巨像と昼食休憩|暑さにひと息つく午後

13時半ごろ、メムノンの巨像のすぐ近くにあるレストラン「Restaurant Paris」に到着。
ツアー料金に食事代は含まれておらず、各自で好きなメニューを選ぶスタイル──なのだが、高額なセットメニューばかり。
私は暑さで食欲もなく、普段からサラダやフルーツ中心の食生活なので、正直セットメニューに食べたいものがひとつもなかった。
思いきって「サラダだけ注文できますか?」と聞いてみたところ、ベジタリアンと勘違い(?)されたのか、あっさりOKが出た。

観光地価格とはいえ、サラダとカルカデーで350ポンド(=999円)とはなかなかの破壊力。
しかも、味は…まぁ…うん、「この味でこの金額か〜」と天を仰ぎたくなるレベル。

食後、バスでほんの数分移動して、メムノンの巨像を見学。
高さ約18メートルの石像が2体、乾いた大地の上にぽつんと並んで立っている。

かつてはアメンホテプ3世の葬祭殿を守っていたもので、現在はこの2体だけが残されているらしい。
遺跡の一部なのに無料で見学できるのが、ささやかなうれしさ。
このあとツアーはハブ神殿(Habu Temple)へ行くとのことだったが、私を含めた女性陣5人は全員「もう無理!」と一致団結。
近くのカフェで休むことにした。
一方、男性メンバー5人は元気にガイドとともに観光へ。
この灼熱の中、あの体力…もはや尊敬を通り越して理解不能。

私たちは冷房を求めてカフェへ避難。
…とはいえ、冷房の風も「ちょっと冷たいかな?」くらいのぬるさ。
女子会になるかと思いきや、みんな暑さでバテバテで、会話も最小限。

氷の入ってないぬるいカルカデーをすすりながら、「もういい…早く宿に帰りたい…」という気持ちが全身から滲み出ていた。
その後、バスは東岸に戻り、クルーズ船の近くで降車。

ここでクルーズの乗組員たちとお別れし、フロントに預けていたバックパックを回収。

そしてようやく、今日の宿「SWEET HOSTEL LUXOR」へチェックイン!
エアコンの効いた部屋、シャワー、ベッド──そのすべてが天国。
荷解きもそこそこに、夕方まで爆睡したのは言うまでもない。
カルナック神殿のナイトショー|光と音でよみがえる古代の神殿
宿からカルナック神殿まではやや距離があったので、今回は配車アプリ「inDrive」を使って移動することに。
このアプリ、ちょっと変わっていて、まず乗客が“希望価格”を提示し、それに対してドライバーが「いいよ」って言えば交渉成立、というオークション式。
最初は「え、値段こっちが決めるの?」と戸惑ったけど、慣れてくるとこれが案外楽しい。
上手くマッチすれば普通のタクシーよりずっと安く移動できるし、チャットでやり取りできるから言葉の壁もそんなに気にならない。
今回は往復ともにスムーズにドライバーが見つかって、灼熱の夜道を歩かずに済んだのは本当にありがたかった。

音と光のショーのチケットは1,000ポンド(=3,024円)と、エジプトの物価からするとかなり強気な価格設定。
でも私には、昼間の炎天下でカルナック神殿を歩き回る体力も気力もない。
だったらいっそ、涼しくて人も少ない夜の神殿をゆったり見られる方がいい──そう思って、思い切って参加してみることにした。

チケット売り場でパスポートを預け、日本語のオーディオガイドを受け取る。
無料だけどパスポート預けるシステムなのがちょっとドキドキ。

開演は20時。
スフィンクス参道の前で開演を待つ。

やがて英語のナレーションが響き渡り、観客たちは列になって神殿の中へと進んでいく。
オーディオガイドを使えば内容を日本語で聞けるのだけど、周囲のガイドと混線するのか、ときどき他の言語が突然割り込んできて、話が一瞬わからなくなることも。
神殿と神々の世界にひたっている最中に、異国の響きが急に飛び込んでくると、思わず現実に引き戻されてしまう。

進んでいくルートに沿って、巨大な塔門や大列柱室、オベリスクなどが次々とライトアップされる。
昼とはまったく違う表情の神殿がそこにあって、静寂の中に浮かび上がる光と影はまるで幻のよう。
オーディオガイドの声に耳を傾けていると、ただの石の壁だったものが、かつて神々とファラオが集った“生きた神殿”として目の前に立ち上がってくるようだった。

やがて一行は聖なる池のほとりへ。

池を正面に見るように設けられた客席に座ると、神殿のシルエットが照明に照らされ、壮大なクライマックスが始まる。

音と光に包まれながら、カルナックの物語はゆっくりと、しかし力強く幕を閉じた。

ショー終了後も、大列柱室やスフィンクス参道はしばらくライトアップされたまま。
観客たちは余韻に浸りながら、写真を撮ったり、立ち止まって神殿の姿を目に焼きつけたり。

私も、その場を去るのが惜しくて、しばらく立ち尽くしていた。

帰り道、「Aboudi Coffee Break」で夜のルクソール神殿を眺めながら、フルーツサラダとモロヘイヤスープを注文。


塩気のある温かいスープが、疲れきった身体にじんわりと染みていく。
遺跡に挑み続けた長い一日、その終わりにふさわしい一杯だった。
本来、エジプト観光に適しているのは冬の季節。
アスワンやルクソールも気温が穏やかで、遺跡巡りがしやすい時期だ。
けれど今回は、ダハブのベストシーズンに合わせて旅程を組んだ結果、ルクソールやアスワンの観光は比較的暑さの厳しい時期にあたってしまった。
それでも、どうしてもダハブの海をベストシーズンに楽しみたかった。
ビーチリゾートに行かないのであれば、やはりエジプト旅行は冬をおすすめします。
5月19日:使ったお金
この日はツタンカーメンの墓とナイトショーで、観光費が一気に跳ね上がった日。
でも満足度は高かったから、よし!
・枕チップ:50ポンド(=142円)
・ハトシェプスト入場料:440ポンド(=1,331円)
・ハトシェプスト乗り物代:20ポンド(=57円)
・写真チップ:15ポンド(=42円)
・王家の谷入場料&ツタンカーメンの墓入場料:750+700ポンド(=4,385円)
・王家の谷乗り物代:20ポンド(=57円)
・昼食代(サラダ等):350ポンド(=999円)
・カフェ代(カルカデー):45ポンド(=128円)
・ドライバーチップ:50ポンド(=142円)
・ガイドチップ:100ポンド(=285円)
・宿代:11.74ドル(=1,799円)
・タクシー代(宿→カルナック神殿):41ポンド(=117円)
・カルナック神殿ナイトショーチケット:1,000ポンド(=3,024円)
・タクシー代(カルナック神殿→宿):45ポンド(=128円)
・夕食代(スープ等):270ポンド(=770円)
合計:13,406円